自己管理

大門:今日は自己管理がテーマです。自己管理と聞いて、皆さんは何となく、少し厳しいというか、自分を律するようなイメージがあるかなと思うのですけれどもいかがでしょうか。他方で、後でもお話しさせていただくのですけれども、できないことを「できない」と言うこと、そこも含めての自己管理ということなのだということをまず知っていただくといいのではないかと思っています。ですから、今日は、自分はしゃきっとびしっとしなくてはいけないというような話ではないですよということをまずは受け取ってもらえると嬉しいです。

コーチングというのは対話です。基本的には、コーチングの場合はセッションを行いますが、弁護士はどうかというと、打ち合わせだったり相談だったり、同僚とのやりとりも業務上あるのかなと思います。共通して言えるということは何かと考えたときに、この自己管理というのは、「目の前の人に貢献する」ということにコミットしたときに必要になるものなのではないかなと思います。目の前の人にいかに貢献するか、そこに自分がコミットしたときに、「自己管理」をしようという意識が出てくるのかなと思います。

まず、コーチングで理想的な状態は何かというお話をします。コーチングにおいて理想的な状態というのは、コーチとクライアントが100%つながっているという状態、レベル2、レベル3の傾聴の状態だと書かれています。これはどういうことかというと、以前傾聴がテーマだった回で、レベル1、レベル2、レベル3の傾聴があるという話をさせていただいたと思います。

簡単におさらいしますと、レベル1というのは、自分の思考の声がすごく聞こえてしまっている状態です。レベル2というのは、クライアントにすごく意識があり、全集中して聴いている状態です。レベル3というのは、クライアントに全集中というよりは、少し俯瞰(ふかん)して、そのクライアントを360度、いろいろなところから見て気付きを得ている状態のことです。コーチングにおける対話は、このレベル2、レベル3の傾聴ができている状態であり、レベル1の傾聴は少し脇に置いて、レベル2、レベル3の状態で聴くことができている状態だというお話をさせていただいていたかと思います。

ですので、このコーチングの理想的な状態というのは、レベル2、レベル3という傾聴ができている状態ということになります。もっとも、コーチも人間なので、クライアントとの会話の中から意識が離れてしまうということはあると思います。それは避けては通れない。人間である以上、常にずっと途切れることなく、レベル2、レベル3の傾聴でい続けるということというのは、なかなか難しいです。では、そのときにどうするのかということが今日、自己管理というところで、メインでお話しさせていただくことになります。

さて、意識が途切れてしまうときとは、どういうときなのでしょうか。コーチングバイブルでは、その日夕食の約束をしていたのに予約するのを忘れていたことを突然思い出した、あるいはダブルブッキングしていることを思い出したというようなとき、それから自分の価値観に触れるようなことをクライアントが言ったりしたときということがあげられていますね。自分とすごく同じ価値観だなと思うときも、意識が途切れてしまうかもしれないですし、反対に、この方の考えは自分とは全く違うなというときに、自分が反応して、自分に意識が行ってしまう状態になったりします。そういうときにクライアントへの意識のつながりが途切れてしまうということがあるかと思います。

あとは、弁護士あるあるかもしれませんが、「これはどうなのですか?」と相談者やクライアントに聞かれたときに、「分からない・・・」というとき。聞かれたけれども答えが分からないときに、「専門家なのにすぐに答えられない自分はどうなのかな・・・」と一瞬思ってしまうなどして、レベル1の状態になることは、多かれ少なかれ皆さんにもご経験があるのではないでしょうか。自分に意識が向いて、勉強不足なのではないか、これが答えられない自分というのは、クライアントさんにどう映るんだろうと思っているとき。これも自分に意識が向いてしまっているレベル1の状態です。あとは、家族とけんかしてしまったばかりで、すごく自分が落ち込んでいる状態であるときなども、人間なのでありますよね。そういうときに、コーチングで言えば、セッションのとき、弁護士で言えば、打ち合わせ、相談、それから、同僚の方との会話のときに、やはり相手に対する傾聴というのがなかなか難しい状況になってしまう、途切れてしまうということがあるかと思います。そういうときに、クライアントへの意識のつながりが途切れてしまうことがある、ということが、ここでは書かれていると思います。

さて、このような状態のときに、自己管理はどうするのということですが、コーチングバイブルでは、コーチであるあなたの意識が今どこに向かっているのかということにまず気付くということが大事である、と書かれています。もう、これができたら7割できたと思っていただいていいと思います。自分は今、意識が離れたなということにまず気付く。気付くと、それを手放すということができてきます。自分の状態にまず気付くということができないと、そこに埋もれてしまいます。私にも経験がありますけれども、そういうふうに自分の内なる声に翻弄(ほんろう)されてしまっているとき、このことにまず自分自身が気付いている状態になることが大切です。そして、そのような状態に自分があることが、クライアントさんにとって望ましくないというように感じたとき、立て直して向きを変えること。それができることというのが、「自己管理」ができている状態といわれています。

ですから、自己管理には2つ要素があるといわれていて、コーチであるあなたの意識が、弁護士であるあなたの意識が、どこに向かっているのか。そして、意識が自分に向いているときに、それにまず気付くことが1つ目です。2つ目は、意識が自分に向いている状態で、セッションなり、相談なり、打ち合わせに対応することが、クライアントにとっていい方向に行かないと思ったら、それを立て直すということ。それが2つ目です。この2つができると自己管理ができているという状態にあります。それと同時にコーチングバイブルには、相手に対してどれだけコミットしているかということを形に表すということでもある、というように書かれています。クライアントに最大限貢献したいと思うからこそ、自己管理をする。この自己管理をするということそのものが、クライアントへのコミットの一つの表現なのではないか、というように書かれていると思います。

そこからまた少し先に進んで、コーチングバイブルには、クライアントから意識が少し途切れてしまうことは本当に自然なことです、というように書かれています。そういうときが私にもあって、少し紹介したいと思います。例えば、相談や打ち合わせ中に、自分に強い反応が起きる場合です。離婚のご相談で、お子さんがいらっしゃる方などがご相談にいらっしゃって、「子どもがまだ2歳と小さいのです。小さいうちは保育園に預けるとかわいそうな気がして、一緒にいてあげたいのですよね。」というようなことをおっしゃったことがありました。そのときに、私は傾聴しているのですが、私自身は自分の子どもを0歳から保育園に預けているわけです。そうすると、相談者が、「2歳の子どもを保育園に預けるのはかわいそうだ」とおっしゃると、私もやはり自分の感情に触れてしまうのです。私ってかわいそうなことをしているのかな、いやそんなはずはないといったような感じです。私には私の価値観があって、保育園に子どもを預けているからといって、子どもがかわいそうとは思っていないけれども、相談者はかわいそうだと思っている。ひとそれぞれの価値観があることはわかっていても、目の前の相談者にそう言われてしまうと、私は一瞬そこに引き込まれてしまうのですね。瞬間的に自分の声が大きくなってしまって、レベル1の状態になってしまうのです。

そうしたときの自己管理の一歩は、「私は今、自分の価値観に触れたな」とまず気付くことです。そして、今この時間というのは、相談者のための時間で、自分のための時間ではないということに気付いたときに、それを手放す。気付いたら手放せるのです。自分の価値観をいったん脇に置いて、また自分を立て直して話を引き続き聴いていくということをします。みなさまにも多かれ少なかれ、似たようなご経験があるのではないでしょうか。自分に意識が向いている状態にあることに気付いて、すぐに手放す。これは結構訓練がいるかもしれません。補助輪なしの自転車に1回目で上手に乗れるひとはあまりいないのと同じで、トライアンドエラーであっても、これを繰り返しやっていくと、自分の意識が今どこにある、ということに自覚的になるということが次第にできるようになっていくのかなと思います

さらに進んで、不当な自己評価と正当な自己評価を分けましょうということが書かれています。これは何かと言うと、クライアントとの関係がうまくいかないときや、なかなか成果が出ないときもあると思います。そのときに自分が自分に対して不当な自己評価をしていないか。不当な自己評価なのか、正当な自己評価なのかということをきちんと意識をするということが大事だというふうに書かれていると思います。私の印象ですが、弁護士には、「自分には能力がない」というように思っている人が結構多いように感じます。あの人はできるのに、自分にはできない。もっとできる人がいて、なぜ自分はこうなのだろう。他の人がやったら、もっとうまくできたのではないかと、そういうふうに考えるなど、自分は何か欠けている存在なのではないかのように思う人が少なくないのかなと思います。では、それは果たして正当な自己評価なのでしょうか。

一般論の話として言いますけれども、弁護士は司法試験に受かっていて、「自分は能力がありません」と世間に言ったら、「何を言っているんだ?」と言われることの方が多いのではないかと思います。なぜなら、沢山勉強をして難しい司法試験に受かっているわけだから、世間では、むしろ勉強ができる、才能があると思われることの方が多いと思うのです。けれども、弁護士自身は「無能な自分。能力が欠けている自分」を真実味をもって握ったりしているわけです。そのように自分自身を思い責めることで、自分に何の意味があるというのか、ということに意識的になるということが、まず自己管理としても必要なのかなと思います。建設的な自己分析というのと、不当な自己評価というのは違うということが書かれていると思います。

一方で、本当に手に負えない状況というのをきちんと認識するのも、これもまた自己管理ですというふうに書かれています。これも私の例で言いますが、私は、「養育費を払いたくない。できるだけ安くしてほしい。」という事件は、特別な事情がない限り受けないことにしています。それは私の価値観に全く反するからなのです。コーチも人間だし、弁護士も人間ではないですか。ですから、自分の価値観と180度違う人と一緒に何かを創っていくというのは、やはり難しい場合があると思います。自分の価値観を脇に置いて寄り添うということができないときは、きちんと「できない」と言うことも、自己管理の一つの現れでもあると思います。ですから、自分の価値観に真っ向から反する価値観の相談者と出会ったときには、「申し訳ないですけれども、私ではあなたに効果的に関わることができないと思います。ですから、私にはご依頼はお受けできません。」というようにお伝えしています。自分の手には負えないことをきちんと把握しておくことも、自己管理の一つの形なのかなと思います。

さらに進んで、実践のところです。では、実際どうしたらよいのでしょうか。例えば、自分の中が結構ストレスフルな状態で、でも打ち合わせは差し迫っているというようなときに、どうするのかということについて、一つは、今少しクライアントとのつながりが途切れている状態である、ということを率直に伝えましょうと書かれています。「すみません。今、少し頭が真っ白になってしまいました。聞きそびれてしまったので、もう一回先ほど言われたことを繰り返していただけませんか」というように、きちんと聞く、ということが推奨されています。ただ、これは時と場合によるとは思います。あまりこれを繰り返してしまうと、クライアントに「全然聞いてくれていない」、と感じられてしまうこともあると思うので、状況を見て、その場その場の判断にはなると思います。ただ、ここで言いたいのは、隠して何かをなあなあで進めていくということではなくて、今、自分がどういう状態にあるというのをクライアントに伝えるということも、一つの自己管理の方法なのだということなのかなと思います。

最後に、「意見とアドバイス」というところに進みましょう。ここは大事なポイントでハイライトする箇所かと思います。
特にマネジャーのジレンマのところです。ここは弁護士業務との重なりが大きいと思います。上司から部下の方に対する関わり、という文脈で書かれていますが、部下からの相談があったときに、マネジャーとしてどう関わるのかということです。マネジャーは、「今、私はいったい何者なのだろう。上司なのか、このテーマの専門家か、信頼できる友人か、それともコーチか」というように自分への問が書かれています。これは何を言っているのかというと、今、自分がどういう人としてこの目の前にいる人と関わるのが、この人にとって最も役に立つのか、というのを、瞬時に自分に問いかけ、判断することだと思います。

弁護士というのは、基本的には、「この場合、法律的にはどうなのですか?」と相談を受けて、それをアドバイスするという存在ではあると思うのですが、専門家としての帽子をかぶるときと、話の流れによって、コーチの帽子をかぶるとき、あるいは友人の帽子をかぶるときもあるかもしれません。そのときそのときで、どういう帽子をかぶってクライアントに対応することが、最もこのクライアントさんに今、効果的なのかというのを考えることが大事なのだ、というようなことが言えると思います。私たちは専門家なので、専門家としてのアドバイスをする、ということに重きが置かれるとは思うのですが、クライアントにとって本当にいいことだと思えば、コーチの帽子をかぶるときもあるでしょうし、友人として共感する帽子をかぶるというときもあると思うのです。それは目の前の人にとって、今何が一番いいのか、今どういう関わりが最も効果的なのかというのを意識するということ、それが大事なことなのではないかと思います。
それでは、今日のレクチャーはこれで終わりにさせていただきたいと思います。

波戸岡:ありがとうございます。素晴らしいですね。レクチャーの中にストーリーも交えていろいろとお話しいただいて、深い学びがありました。

まず、自己管理とはなにか。時々私たちは意識が途切れてしまう、離れてしまうということが起きてしまうわけですが、それに気付くことが大事で、そこから立ち直る、もしくは立て直すことが必要なのですね。
そして、私たちも1人の人として苦手な領域や自分の価値観があり、そこに触れたとき、クライアントに影響してしまうことがあり、そこをどう立ち直すのか、リカバーするのか、もしくは手放していくのか。そこに反応してしまうのではなく、まずは気付くことがはじめの一歩ということでした。

それから、自己評価の話もありました。自己評価といっても、正当な自己評価と不当な自己評価があるので、自分を評価するときに、それはどちらの評価なのかということに改めて意識を持ってみるのは大切なことですね。
そして、究極的には目の前の人にどう貢献していくか、そこにどうコミットしていくかという見地から、自己管理を見つめ直してみるという視点を頂きました。

さて、ご相談の中で、どうしても勝てないだろうという事件があって、それでも相談者から「いや、それでもいいからやってください」のようなことを仰られることもあります。
この点、中原さんはいかがされていますか。自分の価値観に反するときとか、あるいは自分が断っても、他の人のところに行くだけなのかなと思うときなどです。

中原:そういうご相談に来られるときはありますよね。思うに、「それでもいいです」の「それ」の意味がいろいろあるのではないでしょうか。棄却の意味で「負けてもいいです」なのか、棄却どころか、却下されても「いいです」なのか、いろいろあると思うのです。そして、弁護士として大事なのは、ご本人の「それ」が示す本心をどれだけ握り合えるかだと思います。言い換えれば、結局のところご本人が何を求めているのかを、精一杯理解しようと努めるということです。

事件を受任するということは受任事件の始まりであり、ということは、必ず終結の時が来るということでもありますよね。その終結のときに、ご本人が在りたい状態を確認し、そのイメージを共有するように努めることが大事です。例えば、「すっきりしていたい」のか、「やりきったと思っていたい」のか、「相手に自分の思いを伝えたと感じたい」のか、「相手と縁が切れた状態になっていたい」のか。「それでもいいです」の「それ」が何なのか、そこを徹底的に引き出すことで、受任するにしても、しないとしても、お互いに納得ができるではないでしょうか。

なお、「それでもいいです」式の場合は、受任した後のプロセスがとても重要だと思います。難しいとわかっていながら委任したいという人の中には、この出来事にしっかり向き合った、自分なりにやり切ったという感覚を持ちたい人が結構いらっしゃると感じています。この場合は、一つ一つの過程で細かくご依頼者との打ち合わせを入れたり、起案についても「ここのこの一言をどう感じます?」と聞いたり、資料がないのを弁護士が分かっていても、「この資料をもう一回探してくださいませんか?」と言い続けるなど、ご依頼者が事件に関わっていけるようにデザインする工夫も有益だと思います。依頼者自身が事件を振り返ったときに、この事件の過程をひとつひとつ歩んできたなと思えるような関わりを弁護士が意識する、それによって、依頼者の終了時の満足はずいぶん変わってくると思います。

波戸岡:なるほどです。「それでもいいです」といわれて、深い対話をせずにそのまま引き受けたり、断ったりするのではなく、ご相談者の仰る「それ」というのがどういう状態を指しているのか、しっかり深め、共有していくことが大事なのですね。
また、受任した後のプロセスをどうデザインしていくかも大事だというのは大変勉強になります。
それから、相談者とのかかわりの中で、ふと意識が離れてしまうときは、木葉さんはどうされていますか。

木葉:私も意識が離れてしまうことはあります。例えば、ご相談者が複数の事柄A、B、Cの話を連続して話されたときに、自分は初めのAの話に集中していて、その後のB、Cの話に意識があまり向けられていなかったときなどです。そういうときは、B、Cについて、「大事なことだと思うので、もう一回お聞きしてもいいですか」と必ず言って、聞くようにしています。

波戸岡:聞いたつもりや分かったつもりにして流してしまわない、ということですね。

木葉:はい。意識が向けられていなかったことを率直にお伝えして、その場ですぐに確認させていただかないと、本当に大事な部分が把握できないことがあるので、その場で率直にお伝えすることがご相談者の役に立つという思いでやっています。実際、それでご相談者に嫌な顔をされたこともありません。

波戸岡:私も心当たりあります。たしかに嫌な顔をされることはないですよね。
それから、自分の価値観とクライアントの価値観が違うということもあると思います。そういう時は、中原さんはどのようになさっていますか。

中原:まず、自分の価値観に明確に気が付く前に、いらっとするか、うん?なんかざわっとする、といった、いわゆる身体的な反応や感情的な反応というのがあると思います。それに気が付いたときに、なぜ私はいらいらしているのだろうと自分を客観視することで、ああ、おそらく自分のこの価値観がぶつかっているのだな、と気付くことを大事にしています。

逆に、いらっとせず、ざわっともしないときは、自分の価値観、つまり、自分が無意識に持っている思い込みに衝突していない、つまり、自分の価値観をそのまま行使している時ともいえます。それは、もしかしたら、逆に他の人をいらいらさせている可能性もあるかもしれないわけです。なので、自分のイライラやざわつきは、無意識の思い込みに気付かせてくれるアンテナなのだなとだんだん思えるようになりました。そして、怒っている人は困っている人で、怒っている人は、自分の価値観が大事にされていないなと感じている人なのですよね。だから、その人にはその人の価値観があって、価値観自体に優劣は絶対ないぞというのは、強く思うようになりました。

なお、相手の話を受け容れづらいと感じた時に、私が必ず聞く質問があります。コーピングクエスチョンというのですけれども、「そのような中でどうやってやってこられたのですか」と、「どうやってここまでご自身1人で対処してこられたのですか」という問いです。すると、それまで、「相手は最低だ」とか、「ひどい目にばっかり遭ってきた」などと言っていた方が、「それは私にも悪いところがあるから、そこは何度も実は謝ったのですよ」とか、「本当は1円も払いたくないけれども、そういうわけにもいかないから、たばこをちょっと我慢したりして少しずつお金を払ってきたんですよ」など、必ずご自身なりに対処しているところが出てくるのです。そもそも弁護士のところに来るだけで、そのことになんとか対処しようとご本人は思っているわけです。ですから、そういうところから、手をつないでいく架け橋を、真剣につなぐようにしています。

そして、事件が終わった後、どうなりたいか、これも重要な質問です。「今このことで本当におつらい思いをされて、何年も頑張ってこられて、本当によくここまで来られましたよね」と、労います。これは本心です。どんなことでも、その人にとっては実に大変なことだったと思うのです。そのうえで、「いつか事件って終わるのです。それは私は弁護士だから、知っているのです」など言います。そして、「それを終わらせるのは、実は私ではない。たとえ私が代理人をやったとしても、あなたの力なのですよ。そして、あなたにはその力があると私は思うのですね」と。で、「そうなったときにどうなっていたいですか。どのような気持ちでどのような生活をしていたいですか」と聞きます。すると、例えば、会社とのトラブルだったら、「もう新しい仕事をきっとしています」など、「今、実はFPの勉強をしているのですよ。だから、それがやりたいです」など、何か必ず出てくるんです。そこを一緒にきちんと描くことが大事です。そして、細かい話ですが、実際に事件が終わったときに、「これはあなたの努力です」と何度も言います。「あのとき、あなたが〇〇をしてくれたから」などと繰り返し伝えるようにしています。

波戸岡:クライアントの価値観と自分の価値観とがバッティングするのではなくて、むしろ違うことを前提として、どういうふうに関係を創っていくのか、どのように未来を創っていくのかという、どうやって描いていくのかということなのですね。
あっという間に時間が来てしまいました。みなさん、最後に一言ずつお願いできますか。

木葉:私は、自己管理のポイントは、まさに「気付く」が一番のポイントだと思っているのですが、「気付く」ことができる前提として、弁護士自身が自分の体と心の状態を整えておくことが重要だと感じています。私自身、自分のメンテナンスをしないまま長年やってきてしまったところがあるのですが、最近は、自分の体と心の状態が整っているかどうかが自分の聞く姿勢や発する言葉等に影響していることを実感し、整えることに意識が向き始めました。
弁護士は、ご依頼者の負の感情に寄り添うというシーンがあったり、人生の岐路にいるご依頼者に伴走したり、重要な役割を守秘義務を負いながらやっいるので、そのような中で自分の中に色々ためていってしまうこともあると思います。

自分がこの先も継続的に弁護士としてご依頼者のお役に立てるよう、私は今、自分自身の体と心を整える試みとして、小さい習慣を一個一個やってみながら継続するという試みをしているところです。何かこれがよかったというのがあったら、これからご紹介させていただきたいと思っています。今日は、ありがとうございました。

中原:今日はありがとうございました。本当にこの場が温か過ぎて、皆さん、すてきだなとすごく今日も改めて思いました。弁護士の仕事って感情労働の側面が大きいですよね。私は、弁護士をやってからそのことを初めて知りました。それまではもっと法律っぽい仕事だと思っていたのですが違いました。だから、今、木葉さんがおっしゃたように、自分を整えないと、相手へのゆがんだ鏡になってしまいかねない。そして、弁護士自身も精神的に大変ですから、自分自身を整える重要性というのを本当に私も大事にしたいと思います。ありがとうございました。

大門:今日は、ありがとうございました。皆さんもお話しされていたのですが、「打ち合わせや相談というのは、100%クライアントさんのための時間」であると思っています。100%クライアントさんのために力を尽くすには、自分を整えるということが必要になりますし、自分の価値観もまた大事にするということも同様に大切なことだと思います。自分を大事にするということが、相手に対する100%の貢献にもつながるということはやはり大前提としてあって、自分を大事にすることも、大切な自己管理の一つです、ということも最後に添えておきたいと思います。今日は、ありがとうございました。

波戸岡:ありがとうございます。社会学では「価値自由」という概念があり、物事に対して私たちは自分たちなりの価値観を持っている。その価値観は大事なのだけれども、それにしがみつくのではなくて、自分の価値観も大事にしつつ、それはそれとしてあなたはどういう価値観を持っているのですか、聞きたいです、というスタンスが大切なのですね。自分の価値観を持ちつつ、それとよい距離感を保ちながら、クライアントとよりよい関係性を創っていく。そのためにも自己管理は大切な意味を持つのだということを学べました。今日はありがとうございました。

大門 あゆみ (だいもん あゆみ)

法律事務所UNSEEN 代表弁護士(東京・港区) コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) ❖企業法務を中心に、相続、夫婦問題に主に取り組む。クライアントが自分を守り大切にするために、法律家としての専門的知見のみならず、自分の持っている全てのリソースを用いてクライアントを支援したいと...

プロフィール

木葉 文子 (きば あやこ)

太田宏樹法律事務所(札幌市) パートナー弁護士 コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) カウンセラー(JDAP認定メンタル心理カウンセラー) ❖「企業と人の可能性を引き出す」ことを大切に、中小企業法務、労働、離婚・親権、相続、破産管財事件等を中心に取り組んでいます。弁護士である一方...

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中原 阿里 (なかはら あり)

CLARIS法律事務所 代表弁護士(芦屋市) ラッセルコーチングカレッジ主催 コーチ(ICF国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ/PCC) 米Gallup社公認ストレングスコーチ/行動心理士/上級心理カウンセラー ❖英文科卒業後、広告代理店・社長秘書を経て結婚。娘2歳で離婚、働きながら「ひ...

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)

アクト法律事務所 パートナー弁護士(東京・港区) BCS認定プロフェッショナルエグゼクティブコーチ (一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ ❖中小企業とビジネスパーソンをもりたてるパートナーとして、法的アドバイス、対外交渉、契約書作成・チェック、人事労務問題の予防・解決を中心に取り組んでいます。 これまでの...

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