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関係性に影響を与える「4つの危険要因」

今回は、ワシントン大学の心理学の名誉教授ジョン・ゴットマン博士の著書「結婚生活を成功させる七つの原則」(ジョン・ゴッドマン、ナン・シルバー著、松浦秀明訳、株式会社第三文明社)に登場する、関係性に悪影響を与える「4つの危険要因」についてご紹介をしたいと思います。

ゴットマン博士は、結婚生活や夫婦関係、パートナーシップについて、どうすれば安定した豊かな関係を築けるのかということ研究されてきた教授なのですが、そうした研究が、夫婦関係だけではなくて、その他の人との関係性についても応用できるということで、組織開発や、人的関係にかかわるコーチやカウンセラーなどの職種の方々にも、ゴッドマン博士の著書や論文がよく参考にされています

私たち弁護士は職業柄、離婚や経営陣の交代等、いわゆる「お別れ」の場面に遭遇し、これをお手伝いすることも多いと思います。別れは必ずしも悪いことではないとは思いますが、縁あって一緒に生活する方や、一緒に働く方々とは、できれば安定して豊かな関係性を築きたいですよね。

ただ、人は誰一人として全く同じ価値観の人は存在しません。例えば、結婚する二人は、相手のことが好きで結婚することが大多数ではあると思いますが、「同じ価値観」だから結婚しているわけではないと思うのです(共感できることが多くあったとしても)。職場も同じで、「この方に入社して欲しい!」と思っても、必ずしも「同じ価値観」だから入社して欲しいわけではないはずです。ですから、人が人と生きていくときには、考え方の違いや意見の対立というものは、どうしても生じてしまうものだと思います。

考え方の違いや意見の対立が生じたときに、お互いの対応によって、関係性が悪化することもあれば、相互理解が深まって、より安定した関係性を築けることもあると思います。おそらく、どちらも皆さんはご経験があるのではないでしょうか。例えば、一方的な相手の行動や言動に傷ついて、「もうやっていけない」と感じて関係性を解消したり、他方で、自分とは価値観は大きく違うけれども、それが面白い、尊敬できると感じてより親密な関係性につながったりした、というようなことです。

安定した関係にどのようなものが必要なのかということについて、ゴットマン博士は、肯定的なやりとりが、否定的なやりとりよりも多いことが必要だとおっしゃっています。

否定的な、気まずいようなやりとりがある場合、「大好きだよ」、「いつもありがとう」というような相手に対する思いやりや感謝を表すような肯定的なやりとりが多くないと、安定した関係性、豊かな関係性はなかなか築きにくいということのようです。他方で、肯定的なやりとりが多ければ多いほど、たとえ否定的なやりとりがあったとしても修復がしやすいともいわれています。

肯定的なやりとりとは、感謝を伝えたり愛情表現をしたりすること等が挙げられますが、では、否定的なやりとりとはどういうものを指すでしょうか。

これについてゴッドマン博士は、関係性を脅かす「4つの危険要因」といわれる行動に分類できるとおっしゃっています。前置きが長くなりましたが、今回はこれについて紹介したいと思います。

ゴッドマン博士は、「4つの危険要因」とは、「非難」、「侮辱」、「自己弁護」、「逃避」を指すとおっしゃっています。

① 非難:相手の性格、人格、能力等の人格全般への中傷行為
EX.「あなたは無責任だ」、「君はどうかしている」

② 侮辱: 相手を見下したり、屈辱的な言葉を言うこと
EX.「あなたにはどうせ無理」、「あなたは馬鹿だ」、「あなたは思慮が浅い」

③ 自己弁護:言い訳や弁解をすること
EX.「私は悪くない」、「私のせいではない」、「自分は忙しいから仕方ない」

④ 逃避:無視する、その場から立ち去る、対話を避ける等の行為

どれか一つだけが言動に立ち現れるのではなく、例えば非難、侮辱、自己弁護を経た末に、逃避に行き着くこともあるようです。このような「4つの危険要因」がコミュニケーションに生まれると、関係性に好ましくない影響が出てくるということです。皆さんは、誰かとの関係性において、このような危険要因が立ち現れることがありますか?あるとすれば、どの要因が多いでしょうか?

ここで、このような否定的なやり取り(危険要因)を無くすために、その根本となる問題を解決すればよいのではないかと考えるかもしれません。

ゴッドマン博士は、関係性における問題は、解決できることもあるけれども、解決できないこともあると述べています。そして、夫婦間の問題の69%は解決できず、永続するそうです。解決できない問題の方が多いのですね。違いは違いとして存在し続けるため、お互いに問題をずっと持ちながら付き合っていかなければいけない。関係性において、全てのことは解決できないということを受け入れる必要があります。

では、そういった意見の違いや対立を避ければよいのかというと、「逃避」も先ほど出てきた「4つの危険要因」の一つであるように、やはり意見の違いや対立を避けることが必ずしも得策ということではありません。それをやり続けると、関係性に対する悪影響(関係性が疎遠になる等)が生じてしまいます。

したがって、意見の違いや対立が明らかになったときには、否定的なやりとり(4つの危険要因)を回避して、できるだけ関係を維持、修復する対話、コミュニケーションが有効になります。

ゴッドマン博士は、この「4つの危険要因」に支配されないようにするために、有効なコミュニケーションのポイントがあるといいます(著書では、相手との相違点を話合う際に重要なポイントとして紹介されています)。具体的には以下のようなポイントです。

①話を切り出すとき、柔らかく表現する
②関係修復の意欲を持ち、努力する
③「4つの危険要因」に支配されないように激しい口論となった際には自分の精神状態を冷静にみる
④妥協することを学ぶ
⑤相手の欠点について寛大である

 
危険要因が出そうになっている際に、なかなか全てを実践することは難しいかもしれませんが、相手に対する思いやりや感謝の気持ちを礎に、こうしたポイントを少しでも実践できるとよいですね。

今日は、ゴッドマン博士の提唱されている関係性に影響する「4つの危険要因」やそのような際のコミュニケーションのポイントを紹介しました。近しい関係であればあるほど、危険要因は出やすいということもあるかもしれませんし、上記のようなポイントは実際に使うにはちょっと気恥ずかしい…というようなこともあるかもしれません。ですが、皆さんと大切な方との関係性に停滞感がある、上手くいかない、というときには、「4つの危険要因」のどれかが影響していないか、対応方法がないかを一度振り返ってみるとよいかもしれません。

皆さまが大切な方とより豊かな関係性を築くために、ご参考になりましたら幸いです。ご清聴ありがとうございました。

大門 あゆみ (だいもん あゆみ)

法律事務所UNSEEN 代表弁護士(東京・港区) コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) ❖企業法務を中心に、相続、夫婦問題に...

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