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心に寄り添った弁護とは by石尾理恵

1. 自己紹介

大阪弁護士会の石尾理恵(いしおりえ)と申します。
企業法務や相続、離婚、交通事故、破産などの民事事件を幅広く扱っています。

今年で弁護士4年目をむかえ、子育てでも慌ただしくしている毎日です。まだそれほど長くはない弁護士経験の中で感じたことや気づいたことを雑感のような形でまとめてみました。

2. 「傾聴」の大切さについて

コーチングの勉強会では、「傾聴」と「承認」が重要だということを学びます。中でも「傾聴」については、私がもっと先入観なく相手の発する言葉のひとつひとつに耳を傾けるべきだったのではないかと感じた自分の中での失敗談があります。

弁護士2年目のことです。ある案件で、依頼者の方と打ち合わせて示談するか否かを早急に決めなければならないことがありました。依頼者に内容をご説明して、承諾を得て委任状をもらい、相手方と公正証書で示談書を交わしました。しかし、後から依頼者の方に「自分は本当はこうしたかったんだ。」と打ち明けられたことがありました。

 当時は、なぜ後からそんなことを言うのだろう、自分の頑張りは何だったんだろうと落ち込みました。どうしようもなかったと言えばそうなのですが、本当にそうだったのだろうかと振り返りました。すると、自分にも話を聞く際に自分だったらこの内容で合意をするだろうし、一般的にもそうだと考えられるという先入観のようなものがあったのではないか、自分は相手の話に全神経を集中させて注意深く聞いていただろうかという反省点がありました。

何が解決かというのは人それぞれです。有利不利を問わず、丁寧にその人の話を聞いて、選択にその人の意思をしっかり反映させなければならないと思いました。

それ以降は、一切の先入観を捨てて、この人はどのようなことを重視しているのだろうと考えながら、注意深く相手の話に耳を傾けるようになりました。すると「丁寧に聞いてくれて有難う。」というお声や、依頼者の方の意向に沿うことが法律上難しい案件でも「本当に良くしてくださって有難う。」というお声をいただけるようになりました。

私にとって、法律の知識だけでなく傾聴がいかに大切かということを実感した出来事でした。

3. 弁護士×コーチングの可能性について

「依頼者の方の心に寄り添った弁護がしたい」といつも考えていますが、「心に寄り添った弁護」とは何かということは日々模索中です。

ただ、身近におられる経験豊富な弁護士の先生が、依頼者の方の要望を明確にしていく姿や難しい案件についても「それはできませんよ。」とすぐに法律論で切り捨てるのではなく、依頼者の方の話を傾聴し、質問で深掘りしていくことによって気づきを与え、依頼者が自分で納得いく答えを見つけ出していく姿を見ると、「心に寄り添った弁護」とはこういうことなのではないかと思う時があります。

例えば、親権争いをしている父親からのご相談がありました。その案件では、父親が親権をとることはかなり難しいことが見込まれました。しかし、その弁護士の先生は、だからといって「本件では、親権を取ることは難しいですよ。」とすぐには言いませんでした。「なぜ親権が欲しいのですか。」と質問したのです。するとその父親は、子どもに対する思いなどを話しはじめ、その先生は父親の話にしっかりと耳を傾けていました。
続いて「では、親権がとれたとすると、どのように子供を育てていきますか。」と質問すると、父親は「今まで子どものことは妻に任せてきたので、子どもを育てるのは無理です。」と答えました。「では、なぜそこまでして親権を望むのですか。」と質問すると「妻に対して意地になっていただけでした。本当は子どもと会えればそれでいいんです。」とその父親は自分自身で納得してその答えを出したのです。
その父親が真に望んでいたことは、親権ではなく子どもと会うということでした。それから、父親が子どもに会うための弁護が始まりました。実際はもう少し質問があったかもしれませんが、大まかな流れはこのようなものでした。

おそらく最初に「本件では、親権を取ることは難しいですよ。」とだけ伝えていたら、その父親は「この先生は分かってくれない。」と不満を持ったかもしれませんし、ご自身が真に求めるものを見つけ出せなかったかもしれません。

その弁護士の先生がコーチングを学んでおられるのかは分かりません。しかし、コーチングで重視されている「傾聴」と「承認」や「質問」を通して相手に気づきを与えて行動を促すという姿勢はいつも要所要所に感じられます。

また、その先生からは、「依頼者の方が求めているのは、法律的な正解というより解決である。」ということも教わりましたが、本当にその通りだと思います。

コーチングにおける基本的な考え方は、「その人が必要とする答えは、その人の中にある」 「人は自ら答えを見つける力を持っている」ということです。これからもコーチングを学び、依頼者の方が自分なりの答えを見つけ、それを実現するための法的支援をしていきたいと考えています。
そして、「弁護士×コーチング」で依頼者の方の心に寄り添った解決力のある弁護士を目指したいと思います。

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