直感と好奇心のスキル
木葉:今回は、以前に扱った「直感・好奇心」というテーマについて、各論としてスキルの部分に焦点を当てて、実際の弁護士業務にどのように生かせるか、私からお話をさせていただきます。
まず、直感についてのおさらいですが、直感の主なポイントは、直感が当たっているのか、当たっていないのかは大事ではないということです。大事なのは、弁護士が直感を投げ掛けてみることで、依頼者がご自身の状態に気付いたり、前に進むためのきっかけになればよいということです。直感の具体的なスキルとして、コーチングバイブルでは「中断」のスキル、「感じたままを口にする」のスキルを挙げています。「感じたままを口にする」のスキルは、前回扱った反映のスキルと内容が重なる部分があると思いますので、今回は主に「中断」のスキルのほうを後ほど見ていきたいと思います。
次に、好奇心についてのおさらいですが、好奇心の主なポイントは、相手に好奇心・関心を持つということは相手に対する貢献であるということです。目の前の問題を超えた、依頼者その人を一人の人間として尊重しているかどうかは、好奇心を生かす上でとても重要だと思っています。そして、弁護士がする質問の質にも関わってきます。問題というよりは、その人そのものに焦点を当てているかが大事なのだと思っています。好奇心の具体的なスキルとして、コーチングバイブルでは「拡大質問」、「設問」のスキルを挙げています。設問のスキルは、私は弁護士業務ではあまり生かしていないので、今回は拡大質問のスキルに主に焦点を当てて後ほど見ていきたいと思います。
それではまず、直感のところで出てきた「中断」のスキルを見ていきたいと思います。中断はお話の流れをいったん止めるという関わりです。
中断をする上で大事なポイントは2つあると思っています。まず1つ目は、中断は依頼者のためになると思ったときにするものだということ、裏返せば、弁護士が自分の都合で使うものではないということです。2つ目は、中断した後は必ず認知の関わりをするということです。認知のスキルは前回扱いましたが、中断は弁護士が相当配慮しなければ、依頼者に対して、自分の話を全然聞いてくれなかったという印象を与えてしまいますので、注意が必要だと思っています。私の場合は、中断させていただくときには「いったんお止めしますよ」というお声掛けから入ることが多いのですが、お声掛けのタイミングは依頼者の声とかぶらないようにして、声のトーンは落ち着いた柔らかいトーンにする。速度は早口にならずにゆっくりと、などととても気を使っています。そこを反対にして、依頼者がお話ししている最中に丸かぶりで、強めのトーンで、早口で、実際に今言ってみますけれども、「はい、いったん止めます」という感じで事務的に中断してしまうと、依頼者との信頼関係を損なう方向に働いてしまうのです。
私は、弁護士業務で中断のスキルを具体的にどのような場合に生かしているかというと、例えば、依頼者のお話の切れ目がなくなっていて混乱しているように見えるとき、私は「いったんお止めしますよ。これまでの大変な経緯を分かりやすく説明してくださって、本当にありがとうございます。大事なお話なので、今のところを整理させていただきたいのですが……」のようにお声がけすることがあります。依頼者からすれば、弁護士と話をする経験はなかなかないので、弁護士が依頼者に対して、「あなたのお話はきちんと分かりやすく私に伝わっています」というメッセージを発しない限りは分からないこともあると思います。そこが分からない場合、依頼者としてはこの説明の仕方でいいのか、どこまで詳しく話したほうがいいのかと迷いながら、切れ目なくお話をされているのかもしれません。そこで、弁護士がメッセージを発して関わっていくことで、依頼者にとって相談の時間を実りあるものにするということができると思っています。
ただ、これとはまた別の例で、依頼者が混乱しているというよりは、弁護士に話をすることによってご自身の中の浄化を必要としている、つまり、浄化を必要としているからこそお話が切れ目のないものになっているという場合もあると思います。その場合は、私はお止めせずにお聞きすることもありますし、「いったんお止めしますよ」と中断してから「ここまでお聞きしていて感じたのですが、本当におつらかったですよね」と、依頼者の感情に共感するプロセスを挟みつつ、依頼者ご自身の中にあるものをまず出していただくということに時間を取ることもあります。これは依頼者の状況を見ながら行っています。
次に、好奇心のところで出てきた「拡大質問」のスキルを見ていきたいと思います。拡大質問は本質的な質問をする関わりです。拡大質問はイエス・ノーで答えられる質問というよりは、人に焦点を当てて、依頼者ご自身の奥深くにあるものについて気付きを促したり、現在の視野をもっと広げたりする質問だと思っています。私は、前回扱った俯瞰(ふかん)のスキルも拡大質問の一つだと思っています。
拡大質問については、私は弁護士業務で俯瞰的な使い方をすることが多いです。例えば、視点を未来に移動させる質問として「この事件が終わった時にどのような心境になっていたいですか」、「この事件が終わった後、相手とどのような関係になっていたいですか」という質問をすることがあります。未来に視点を移動させるというのはよく使っている印象です。このような質問をされた場合、依頼者としては、今現在というところに向いている視点が一気に移動して広くなるのです。それで、はっと自分の中で気付きが起こり、フィードバックをしてくださる、前に進むきっかけになるということがあります。
以上、大まかにスキルの説明をさせていただきました。皆さんのご経験についてもぜひいろいろ教えていただけるとうれしいです。
波戸岡:ありがとうございます。直感と好奇心のスキルをお話しいただきました。
直感のところは、これまでの復習として、直感が合っているか合っていないかは大事ではなく、それを投げ掛けてみることが大事だということですね。それが何らかのポジティブなきっかけにきっとなるし、そういうパワーがあるのだということですね。
具体的なスキルとしては、中断のスキルを主にお話しいただきました。それは、中断と言ってもただ切ればいいのではなく、依頼者のためだと思うときにすること。それから、中断したら必ず認知をきちんとする関わりをすること。そうすることにより、依頼者が混乱しているのを整えてあげたり、または浄化というような効果をもたらすことができるというお話でした。
次に好奇心のところは、これも依頼者への本質的な貢献としての好奇心なのだということでした。具体的なスキルとして、拡大質問を主にお話しいただきました。例えば「終わった後にどのようになっていたいですか」と、未来に視点を移動させてみるというような形で、閉じた質問ではなく、開かれた質問が依頼者に新たな気付きや視点をもたらすことがあるということで、実際に木葉さんが普段から生かしていらっしゃることも含めてお話しいただきました。ありがとうございました。
さて、このなかで、まずは中断のスキルについてですが、木葉さんの「いったんお止めしますね」の言葉で実際に中断された場合、いったん止まった状態となるクライアントさんの反応はどのような感じですか。
木葉:中断の入り方に本当に気を使ってうまくいったときは、クライアントさんが嫌な印象を受けている印象はあまりありません。ただ、私の方で、相談時間がこれでは足りないからどうにか整理をしなければ、という焦りがあるときは、私の話すスピードがやや速くなってしまいがちですので、そうしたときに、焦りが伝わるような関わり方をするとまずうまくいきません。入り方が非常に大事です。
波戸岡:クライアントよりも弁護士のほうが焦っている、そのことがむしろ失敗を生んでいるかもしれないということでしょうか。
木葉:もしかしたら、全体的に実りあるものにしようと思っていても、その入り方一つで与えるインパクトが全然違うと思っています。
波戸岡:大門さんは、中断のスキルについて、何か意識していることや、クライアントさんの変化などで気付いたことはありますか。
大門:私は、前に木葉さんがおっしゃっていただいたことを、自分なりに使わせてもらっていることがあるのです。「ちょっとお止めしますよ」と言うことと、その後に「今、大事なことをお話しいただいたので、そこをフォーカスして聞いてもいいですか」というフレーズです。「大事なことを今お話しいただいたので……」ということが入ると相手も認知された気持ちになり、今自分は大事な話をしてそれが弁護士に伝わっているということが伝わりつつ、そしてその核心のほうに話を戻していくことを、以前この会で木葉さんから教えていただいたことがありました。今、私もそれを使わせていただいているということを思い出しながら聞いていました。
波戸岡:なるほどです。中原さんはいかがですか。
中原:私もそうです。弁護士経験が増せば増すほど、依頼者さんの話を途中で止めるのにあまり抵抗を感じなくなりました。それは、止めても大丈夫だったという経験を重ねたことが一因だと思います。先ほど木葉さんと大門さんがおっしゃったとおり、内容にあまりこだわらず、いまこのあたりでいったんお止めしたほうが、流れがよくなるんじゃないかと思ったところで、勇気をもって中断していいと思います。具体的には、弁護士として、感覚的に、話が少し長いな、これは時間が足りないとか、混乱してこられたかな?と感じたところで、遠慮なく止めていいと思います。意外と、いったん止めることでご本人にとっても楽な時があると思います。ただし、止め方は最大限の注意が必要です。止める瞬間には、まず相手を受け止める。「まあ、そうでしたか、それは本当に…」などと、相手を尊重する言い回しと心持ちが大事です。「それはそれは……」「そこはポイントですね、ちょっと詳しく聞いてもいいですか」という表現で、丁寧に、整理を進めていく。これは、経験上かなり有効だと思います。
波戸岡:ありがとうございます。中断することが問題なわけではなく、実は中断の仕方の問題だったりするのかもしれませんね。会話はいわばキャッチボールですから、「なるほど、少しいいですか……」という形で、いわばずっと走っている人を「いったん止まって大丈夫ですよ」という感じで接することで、思いやるのある関係性になるのかもしれません。
中原:まさに、中断の方法と、中断した後の対応が決め手だと思います。
波戸岡:中断した後なのですね。中断した後はどのようなことを意識していますか。
中原:中断した後に、依頼者さんが、まるで今まで話してきたことが否定されたかのように感じると、つらいと思うんです。結局のところ、ご依頼者の最終的な満足度は、どれだけ話を聴いてもらったと、依頼者ご自身が感じてくださったのか?という点に集約されると思います。まさに木葉さんがおっしゃったように、弁護士がご依頼者の気持ちを受け入れています、としっかり相手に伝わることが大事です。そのための工夫としては、「今のお話を前提とすると……」「今のお話を聞いた上で、私は弁護士としてこのようなことを考えました」のような表現をとっています。
なお、時には、依頼者の考えややり方が、弁護士としてはあまりお勧めできない時もありますよね。その場合でも、頭から否定せずに、「〇さん(ご依頼者)のお立場ならば、そのように感じるのも納得です」などと伝えます。これによって、そこを基盤にして、落ち着いた会話を展開していくことができると思っています。
木葉:今中原さんのお話を聞いていて、そういえば、と思ったのですが、相手に評価・判断の目で見られているな、と思うと、「うっ」ときますよね。何か言ったときに、これは今ジャッジされているのだと思うとびくびくもしますし、反発もします。なので、弁護士が、「あなたを評価・判断してやるぞという目線で聞いているのではありませんよ」というマインドの部分をしっかり持ちながら、メッセージを発することが大事なのだ、ということを聞いていて思いました。
中原:本当にそうですね。話を切ることが否定や非難のニュアンスを持たないように、切ったときには、必ず「ここまでお話しくださってありがとうございます」と言うようにしています。そして、さらに、何かを褒めます(笑)。「複雑なお話をよく整理してくださって」「よくこのように大変なことに、長い間お1人で立ち向かわれて……」など、3つぐらいのパターンを用意しておいて、必ずどれかを言います。言い換えると、この褒め言葉を出すために、止めてるんです。
波戸岡:なるほどです。それから、しっかり傾聴をしていると、終わらない傾聴のときもあります。この点は木葉さんいかがでしょうか。
木葉:依頼者が浄化を必要としている場合に、まずはお話をお聞きして、依頼者の中にあるものを出していただくとしても、それでも時間に限りがある中でお打合せをさせていただかなければ、ということはありますよね。
私としては、例えば、細かい経緯を詳細にお話し下さる依頼者、特に、同じお話を繰り返しお話下さる依頼者は、細かい経緯をわかってほしいというよりは、本当に今までお辛くて、その辛い感情に共感してほしい、というお気持ちが深層にある場合がある、と思っています。そのような場合、私は、「本当にお辛かったですよね。お話をお聞きしていて、ご自身が思っていらっしゃる以上に大変傷ついたこともあっただろうし、大変我慢強い方なのでここまで何とかやってこられたのだと思います」のように、共感して、認知をする、という関わりをしています。浄化を必要とする依頼者は、ずっとお話をただうかがうというような傾聴すればよいかというと、そうではなくて、共感、認知が大事だと思っています。
波戸岡:大門さん、何か気づいたことがありますか。
大門:そうですね。弁護士は弁護士業務として、物事を進めるために依頼をしてもらっているところがありますよね。クライアントさんにとってはもちろん大切なことなのだとは思うのですが、その話だけをしていると物事が全然進まないときには、もう一回、何を握って依頼をされたのか、ということを確認するのもいいかもしれないと思います。それは、「どのようにこの件を進めていきたいですか、前進をさせたいですか、どのように進めば良いと思いますか。」ということをもう一度聞いてみる関わりです。クライアントさんにとってその話が大事なことなのだとは思いますが、期限が決まっている書面を出さなければならないというように物事を進めなけばならないこともあります。何を選択しますか、何を優先したいですかというお話もしていく。もう一回、握り直すことが必要になることもあると思います。その上で、今この限られた打合せの時間に、どのような話をしていくのか、何の会話をするのか、この時間の中で私たちは何を作りますか、ということを握り直すこともあるように思いました。
波戸岡:ありがとうございます。次に、直感ですが、直感はどのように磨いていますか。直感は、意識することで感度が高くなっていくものなのでしょうか。
中原:適切な答えなのかは分かりませんが、直感自体を磨こうと意識しているということはありません。ただ、もしそれに結び付いているとすれば、できるだけその事柄からニュートラルであろうということを常に意識しています。弁護士業務の中でも、それ以外の社会的なことでも、これは正しい!とか、それはひどい!といった、最初の瞬間的なジャッジがあると思うんです。その、一次的なジャッジをしている自分に気が付いて、その上で、それを手放して別の見方もある、このような見方もあるかもしれないというのを、何パターンも考える訓練のようなものを、ここ何年もしているかもしれません。
というのは、自分の考え方はこうだ、これが正しい!という瞬間は、自分だけの世界で完結してしまってますよね。自分の既存の価値観で終わりです。そこから、相手から見たらこうかも?と思うと、少し視座が上がります。さらに、第三者から見たらどうだろう?ともうひと踏ん張りすると、さらに視座が上がる気がするのです。これを重ねていくと、次第に自分が何かにとらわれていたことに気が付いて、自分もちょっと楽になります。このように次第に視点を広げていって、さまざまな観点を自由に往来できる状態を、仏教用語で「観自在」といいますよね。この観自在の状態で、直感が起きるのではないかと思うのです。
大門:私も直感を磨くようなトレーニングはしていないですが、直感でなんとなく生きている部分は、多分意識していないだけで、あると思います。気付いていないだけではないでしょうか。なんとなく今日はショートケーキよりモンブランがいいというような、なんとなくそれも直感です。それから、今日はこちらに行って散歩をしたらいい気がするなど、そういう簡単なことも直感だと思うのです。
例えば、このクライアントさんは本当はすごく頑張ってきた人なのではないか、と思ったときに「これは私が感じたことなのですが、あなたはこれまでものすごく人のために頑張ってきた方なのではないですか」と伝えること。こうした、ただ湧いてきたもの出す関わりだと思うのです。
波戸岡:なるほどです。それから、木葉さんの話の中で、認めたり、褒めたり、受け入れたりする言葉掛けをして中断をしたら、依頼者の方に安心を与えることができるという話がありました。これはテキストには書いてありませんでしたが、木葉さんいかがでしょうか。
木葉:中断は、私も今までかなり、こうしたらうまくいかなかった、こう言えば少しうまくいったなどの経験がたくさんあるので、それで工夫してきたという感じです。本当に大事なのが、自分の状態が整っているかどうかです。自己管理のところと関わってくると思います。マインドがきちんとしているか、というところがまずあり、そうでなければ不思議なもので、なかなかスキルの部分がうまくいきません。だから、そこを意識して行っていけば、きちんと関係性の構築に役立つ効果的な関わりができると思います。
波戸岡:それから、相談の導入部分で、そもそも中断をするかもしれないと話しておくことも有効でしょうか。
大門:最初に合意を取っておくということは、すごく機能すると思います。これは何のための相談の時間なのか、先ほど木葉さんもおっしゃっていましたが「一緒に良いものを作っていきましょう、そのために、もしかすると途中でお話を止めさせてもらうことがあるかもしれません」というように、それはより良いものを作り出すためなのだという合意を取っておくということは、一つ効果的な手段だと思って聞いていました。
波戸岡:あらかじめ合意をしておくというのは、コーチングの基本でもあります。「これからコーチングをします」「これから終わった時にどうなっていたいですか」など、しっかりとお互いに合意を取り、その合意の下で共にその場を創っていくというのがコーチングの基本です。そこを私たちは、つい忙しいからと、スッと相談に入ってしまい、途中になって、まずい、止めたい、という形になったりしてしまいがちですね。
次に、好奇心のところで、「拡大質問」がスキルとして出てきました。「今はどんな状態ですか」とか「これからどのようになりたいですか」などと5W1Hで聞くわけですが、そうすると、その後に沈黙が訪れることがよくあります。木葉さんは、拡大質問をした後の時間について、どうなさっていますか。
木葉:沈黙の扱い方というところですが、つい沈黙が続くと居心地が悪くて、何か挟まなくてはいけないのではないかと思ってしまうことは私もあります。ただ、依頼者にとっては、この場で何かを言わなければいけないわけではありません。結果的に気付きが起こり、前に進むために役立てばいいので、沈黙が続く場合は、「今この場で整理し切る必要はないですよ」と言っています。この場で答えを出してもらおうというよりは、沈黙の時間を共有して、共にいるというところも大事だと思っています。おそらく、依頼者はこれまで、ご自身が考えていて沈黙している時間に人が付き合ってくれるというような経験をしていません。してもらえるともあまり思っていません。時間にしたら1~2分間でも、その沈黙の時間を共有することや、「この場ですぐに答えを出す必要はありませんよ。ゆっくりとご自身の中で考えていただければいいですよ」というメッセージを伝えることが大事だと思います。
波戸岡:そのように、考える時間を一緒に伴走するというか、その時間をどうぞ味わってくださいと言ってくれる人は、それまでいなかったかもしれませんね。
木葉:いないと思います。それも何時間も何十分もというわけではないのです。ただそれが何分かのことであっても、その沈黙に付き合ってもらうという経験をしていないと思います。
波戸岡:それから、同じ拡大質問でも、「なぜ」とか「どうして」というのは、追及・詰問しているように受け取られることもあります。このあたりは、大門さんのお考えはいかがですか。
大門:以前もこの会の時に「なぜ」「どうして」というのは、尋問的な聞き方で、相手をともすると不快にさせるワードだというお話がありました。他方で、その人がどのような在り方で聞いているかということも大きいのではないかと思います。「どうして」「なぜ」と聞いても、その関係性によっては別にそれほど嫌な感じがしないことも当然あると思うのです。
豊かな関係性ができていれば、「どうして今日は休んだのですか」と聞いても、相手が必ずしも不快に思うことは多くないように思います。他方で、「なぜ今日は休んだの」「どうして休んだの」と、あまり関係性の深くない方に聞くと不信感が生まれてしまうと思います。そういうときは「何があったのですか」という聞き方でオープンに聞くといいのかもしれません。
波戸岡:それから、拡大質問やオープンな質問の形をとっておきながら、実は誘導的な意図があったりすることってないでしょうか。誘導は、こちらは良かれと思ってやるところが、逆効果になったりすることもあります。その辺は中原さんどうでしょうか。
中原:いわゆる見せかけの質問というものですね。例えば、「本当にそれでいいと思っているのか?」とか。疑問形になっているけど、実際には、「それでいいわけないでしょう」というメッセージが与えられていますよね、これが見せかけの質問です。これはよろしくなくて、相手の話を心から聴くときは、聴き手が勝手にストーリーを作りながら聴いてはいけないと思うのです。ですから、こちらが何かお伝えしたいことがあるのであれば、それは質問の形式を取らずに、「私はこのように考えています」「このような方針もあります」「この件では、このような方針も一つの有力なやり方だと思いますが、どうでしょうか」などのように率直に言えばいいと思います。それは、クライアントの役に立つ提案としてお渡しするものです。
質問も、提案も、それぞれのスキルにはそれぞれの機能があります。その機能を理解したうえで、相手のために効果的に使いこなす、使い分ける必要があります。なので、提案をしようと思いながら質問をする、といったギャップが出てくると、不自然な交流になってしまいます。それはつまり、そのスキルに応じた機能を果たすように使っていないから起きることです。そうならないように、質問なら質問、提案なら提案の機能を理解して、適切な場面で、きちんと意図を持って話すことがよいと思います。
波戸岡:なるほどです。「今はあなたの考えをお聞きしたいです。一方で、私からも提案できます」というように分けてみるというのはありですね。それでは最後に一言ずつお願いします。
大門:クライアントさんに良いと思った関わりをするときに、コーチングの要素があるとよいのではないかと思っています。コーチングを全面的に弁護士業務のクライアントさんに使うということよりは、エッセンスとして持ち込むという感じだと思います。そのため、弁護士として「私はこれが良いと思います」という意見を言う場面ももちろんありますし、そうではなく、深く傾聴するという場面もあると思います。今日はありがとうございました。
中原:対話を通じて、多角的にものごとを考えることができています。まさに、質問の力、それをお互いに聴き合う力を体感させてもらい、大変感謝しています。何度も「あるよね、それだよね」と思いながら聞いていました。本当に今日もありがとうございました。
木葉:皆さん、今日もありがとうございました。私にとって、皆さんと双方向でいろいろとお話しさせていただく時間は、無意識下にあるものを言語化するプロセスになっているのだと今日気が付きました。だから、お話を聞いて、そうかとメモを取ったものがたくさんありました。これからも工夫をしていきたいと思っています。よろしくお願いします。