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コーチングの質問と弁護士業 by佐藤美由紀

1 自己紹介

こんにちは。佐藤美由紀と申します。
私は、普段、福祉的な視点を持つ弁護士として、離婚や相続といった家事事件、成年後見業務、刑事事件を取り扱っています。また、障害のある方の意思決定にもアドバイザーとして関わっています。

また、メンバーである中原阿里さんの主催する、ラッセルウィルビーイングコーチングカレッジの修了生であり、現在進行形でNLPも学んでいる、人に興味津々の弁護士です

2 コーチングの質問と弁護士業

さて、みなさんは、自分の質問が相手に与える影響を意図して、相手へ質問したことがありますか。
もしかしたら、何を言っているんだろう、と感じる方がほとんどかもしれません。
 
コーチングを学ぶ際、普通の質問と、コーチングの質問の違いを学びます。
その際、私にとって衝撃的なことがありました。

コーチングでは、「WHY(なぜ)」の質問を極力避ける。

もちろん、「WHY」が禁止されているわけではありませんが、「WHY」の質問は、使い方によっては相手を責めるニュアンスがあり、過去を正当化させる言い訳の呼び水となってしまうことがあるからです。

「WHY」の質問は、「HOW」など別の質問に置き換えることができます。そして、質問方法を変えることで、クライアントは自己の正当化をするのではなく、未来や問題の解決にも目を向けられるようになるのです。

なぜこのことに私が衝撃を受けたのかというと、法律相談の席で、私が使っていた質問の大半が、この「WHY」の質問だったからです。

「なぜ、そのような行動をとったのですか」
「なぜ、そう思ったのですか?」

私に限らず、弁護士の多くは「WHY」の質問を多用しがちです。
すると、このような質問を受けたクライアントは、過去の自分の正当化を考え、過去の自分が悪くなかったと語り始めてしまいます。
それを聞きながら、私は、「どうしてこの人は言い訳ばかりするのだろう」と思ったことすらありました。自分の質問が、クライアントや相談者の言い訳を誘引しているとは全く気が付かずに・・・。
自分が無意識にクライアントの思考を阻む質問をしていたと思うと、本当に恥ずかしい限りです。

コーチングを学ぶようになってから、法律相談や打ち合わせの席での、質問の質が変わるようになりました。
もちろん、法律の世界では、事実と証拠が重要です。
しかし、離婚事件などの家事事件は、クライアントの葛藤と向き合う場面も多くあります。
そのような場面で、コーチングの質問を使うことで、クライアントは思考や気持ちの整理ができるようになります。

クライアントの「そうなんです。私が本当に言いたかったことはこれです。」という発言や、「わたしが長年引っかかっていたことはそれなんです」といった発言を聞く機会も増えました。
また、クライアントの笑顔を目にする機会も断然増えました。
質問の仕方一つで、ここまでクライアントが変わることは本当に驚きでした。

他方で、これまでに私が無頓着だった「WHY」の質問がクライアントに与えていた影響を考えると、背筋が凍る思いがします。私があの時、コーチングの質問を使えていたら、そのクライアントはどんな素敵な話をしてくれたかと思うと、非常に悔やまれます。

いざ、コーチングや心理学の勉強を始めてみると、法的な紛争の場面では、その背景にクライアント自身も気が付いていない信念(ビリーフ)や、言葉にできない思いが存在することがあります。
そういった思いの存在に気づき、一緒に整理していくうちに、クライアントが過去を清算したうえで、未来に向けての「再出発」できるように、変化していくのです。

3 これからの弁護士に求められる能力

司法試験の場でも、司法修習でも、私たちはコミュニケーションスキルを学ぶことはありません。もちろん、コミュニケーションスキルの必要性を感じ、独自に学ぶ弁護士も少なからずいます。

しかし、弁護士が関わるクライアントは、怒りや喪失感、心の傷を抱えた方が多くいます。しかも、法律の手続きの中では、十分な被害回復が図れない場面も多く存在します。
そういった場面に立ち会うからこそ、我々弁護士にもコミュニケーションスキルが今後ますます必要になってくるように感じます。

クライアントが弁護士に本音を語れる
弁護士が、クライアントの気持ちに寄り添って活動する
そんな関係が築けると素敵ですよね。

コーチングというのは、まさにクライアントの「再出発」を後押ししてくれるコミュニケーションスキルです。
過去の後悔にとらわれていたクライアントが、たった一つの質問で、未来に目を向けることができる。質問にはそんな魔法のような力があります。人の心を癒す力もあります。
私自身、まだまだ勉強中の身で、質問の力をうまく使いこなせていません。しかしながら、コーチングを学ぶことで、単なる法律問題の解決だけではなく、クライアントの再出発の後押しができるようになるのではないかと期待しています。
そのためにも、今後もこの会の仲間たちとともに、研鑽を積んでいきたいと思います。

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