チーム論

中原:こんにちは。今回も、依頼者コミュニケーションをアップデートしようというテーマで、前回に引き続きお話しさせていただきますね。
ここで、大事な理論、Transformative modelがあります。これは、前回もお伝えしましたが、弁護士から依頼者に対する、深い承認や明確な信頼の表明によって、本人には変容がもたらされることをいいます。どのような変容かというと、人が本来持っている自己解決能力、出来事に対する受容性を引き出して、さらにそれらを高めることができるという考え方です。
Transformative modelは交渉用語ですが、人には必ず可能性がある、本人の中に必ず答えがあるというコーチングの基本的な考え方を、別の形で表したものと捉えることも可能です。

そもそも、弁護士に相談に来る依頼者さんというのは、人生の全体でトラブルを抱えていたわけではないでしょう。ほとんどのことは自分の力でうまくやってきたんだけども、その事件において、なぜか、問題解決能力や、冷静な判断力や、合理的客観的な視点などを一時的に少し失ったり、衰えていると理解するほうが適切だと思います。そうとらえることによって、弁護士側も、依頼者への先入観やジャッジを廃除し、より適切に対応できると思っています。代理人としての弁護士の仕事の本質は、依頼者本人の解決力、判断力を補助する、お手伝いする、信じるということにあるという意味です。

なお、場合によっては、ご依頼者本来の力を取り戻していただくだけではなく、それをさらに高めるような効果もあります。心的外傷後ストレス障害=Post Traumatic Stress DisorderがPTSDですが、それに対して、心的外傷後の成長=Post Traumatic Stress Growth、PTSGといわれるものです。こうした状態にまで依頼者と歩みを進めていくという思いが、対人援助職としての仕事の価値を高めることができるでしょう。
 
さて、今日は、依頼者対応をアップデートするための、受任時のポイントについて、お伝えします。
弁護士業はおおむね3ステップに分けられますよね。最初にお話を聞いて、初回相談が一段階目の受任です。次に事件を遂行していく二段目のプロセスです。最後に、終結に進んでいく三段目です。それぞれの段階におけるポイントがある中で、前回は一段階目の「聴く」ところにフォーカスを当てました。中でも、主に受任前のところについてお話をしましたので、今日はステップ2、受任から遂行の場面についてお話しします。

なお、この辺りはコーチングというより、チーム論に近い話になります。つまり、この段階で私が意識しているのは、依頼者と弁護士を、チーム論で考えるということです。それは、「受任」イコール、依頼者と弁護士がチームを組むだととらえることを意味します。

チームを組む

チームというと、スポーツ、仕事、ビジネス、地域、あるいは家族など、いろいろな人の単位がチームとして成り立ち得ますよね。このように、チームにはいろいろなものがありますが、一方で、チームが良く機能するための要素は決まっています。かつ、その要素が明確で、これがしっかりと共有されているのが良いチームになるわけです。

その要素と何か、まず1個目、「チームメンバーは誰か?」です。メンバーは依頼者であり、弁護士であり、場合によっては担当の事務局さん、関係者、依頼者のご親族だったりします。それから、私は、相手方、相手方代理人もメンバーと考えます。また、裁判官や書記官、あるいは調査官も、メンバーとしてとらえる視点が有益だと思います。こうして、メンバーは誰かを明確に依頼者と共有することがまず第一です。メンバーがはっきりとした段階で、メンバーそれぞれの役割を明確にしましょう。これは大変重要です。

例えば、弁護士の役割としては、法的助言、相手方との連絡交渉、主張書面の作成、そのほか、これはここまでやります、といって、具体的にやること、そしてやらないことを明示します。次に、事務局さんがの仕事範囲も伝えたほうが安心です。例えば、伝言を受けたり、弁護士に変わってメールをしたりすることもあります、などなどですね。これも、ちゃんと伝えていないと、事務局さんからの連絡に不信感を抱く方がいらっしゃいますので、先にきちんと伝えることが大事だと思います。

そして、重要なのが依頼者の役割です。これが意外と明確になっていないケースが多いかと思います。最大のポイントは、意思決定です。「最終判断は、必ずご本人にしていただくことです。」「最後だけではなくて、途中でいろいろな場面で、ご意見を聞かせてください、途中でもご自身にご判断いただく場面がありますので、その際はよろしくお願いします。」とはっきりと言います。これを受任時にも、遂行中でも、終盤でも、一貫して伝えるということがすごく大事です。つまりは、布石です。これが依頼者の自律性というか、ポジティブな意味での責任感を醸成していくことになります。いうなれば、ちょっとした心理教育といいますか、ご自身が解決していくという意志や向き合い方を育てていく感じでしょうか。

ついでに言うと、「反復性理論」というものがあります。これも行動経済学ですけれども、要は、人は、繰り返し伝えられたことを、次第に受け入れていく、という単純な理論です。最初は「ん?」と思ったり、あまり反応していないように思えても、繰り返し伝えていくと、必ずそれをいつか当然のことのように受け入れている、それが反復性理論です。これを意識しながら、一貫して、当初から同じことを伝えるということが大事かと思います。

チームの目的

次に、チームといえば目的・目標です。チームと、単なる人の集団の違いは何か、これは共通の目標があるかどうかですよね。弁護士と依頼者チームの目標は、もちろん事件解決なのですが、その事件解決とは何かということを、2段階で把握することがポイントかと思っています。

というのは、人の思いというものは通常、何段階かの複層構造になっていますよね。例えば、子どもに塾に行ってほしいという場合には、いい大学に行ってほしいから、そして、将来幸せになってほしいから、という風に何段階かに分けられますね。温泉に行きたい、という場合も、その先に日々の仕事から解放されてゆっくりとしたい、ひいては健康でがんばりたい、という場合もあれば、あるいは、家族がもっと仲良くなりたい、という思いがあるのかもしれません。

このように、目の前の希望の先にある、より本質的なところを握っておくこと、これができると、最初の目的、例えば塾に行きたいということや、温泉に行きたい、などは、その人の大きな目標のための、一つの手段にすぎないということが分かります。

弁護士も同じで、目の前に見えている目標は、例えば離婚や、慰謝料の獲得や、契約書のチェックなどです。そういったものは、あくまで一次的な目的であり、もちろん、これがないがしろにされるということでは全然ないのですが、二次的な目的、その先にある本質的な目的があると信じて、それを弁護士が引き出すということが、とても大事だと思います。

私が出会ったケースですと、不貞の慰謝料の金額でもめていたあるご依頼者の本当の思いは、「平穏な生活をしたい」でした。また、賃貸人ともめている経営者さんですと、ぐっと深めれば、結局は「従業員に安心してほしい」といった思いに行き着いたこともあります。このあたりの本質的な思いを明確に引き出して共有すると、行き詰まったときに一緒に戻れるところがあるわけです。

前回、対人援助における「キュアとケア」の話をしましたが、それにからめて言うと、キュアから、ケアへの架け橋にもなります。例えば、離婚を避けたい依頼者がいるときに、離婚を避けようと努力するのがキュアでしたよね。しかし、必ずしもそうなるとは限らないわけですで、そのときにクライアントの主観的な満足にどう寄り添っていくのか、これがケアです。このケアの側面で、依頼者の本質的な目的をどれだけ共有できているかが物を言うことになると思います。

特に、慰謝料の獲得といった目標は、どう考えても手段、プロセスであって、本来的な、本質的な目的を達成する手段は、他にも必ずあるはずなのです。なので、その本質的な目的を共有していくためには、コーチング的な質問がきっと役立つと思います。

で、そのコーチング的な質問というのは、例えば、「本件を解決する上で、いったん本件から離れて一番大事なことは何だと思いますか」という感じです。慣れている先生方は、よく使っておられると思いますが、私自身は、最初にこの問いをするときは、少し勇気が要りました。「本件から離れて」と弁護士が言ってしまっていいのか?ということです。でも、言ってみると大丈夫、クライアントさんはご自身の言葉でちゃんと語ってくださいます。むしろそういうところを共有できる弁護士と、信頼関係を結んでくださるという実感もあります。

逆の観点からいうと、この大きな目標を共有して、きちんと設定しておかないと、弁護士側としてはリスクともなります。要するに、その一次目標が達成されない可能性というものは十分にあるわけですから、それ以外の手段というものも見ておく必要があります。結局は、一時的な手段ではなく、本当の目的に近づけばいいわけですから、依頼者の納得の範囲を広く知っておくこと、そこに持って行けるようにしておくということも、やはり一つの、受任の際にしっかり置いておくべき布石だと思っています。

チームのルール

次は「ルールをはっきりとさせよう」です。チームのルールはとても大事です。これは、ルールを決めるのはもちろん、それを先に全員に知らせておくことが、お互いを守ることになるかと思います。基本的ルールとして、報酬や辞任、解除などのことですね。これはもちろん、先生方も契約書の段階できっちりとお話しされていると思いますが、チーム論でいうと、いつチームが結成され、退団のリスクはこういうことで、解散の条件はこういうこと、といった感じです。このルールをきちんと共有したいのです。

また、弁護士のチームルールには、連絡や報告の頻度なども含まれます。特に進捗(しんちょく)がないときや、連絡の方法、折り返しの有無など。こういうことも、最初にきちんとお伝えしておくということが大事ですし、最初でしたらなんでも言いやすいのです。というのは、依頼者の中には、弁護士はずっと机に座って電話をすぐに取るものだと思っている人もいらっしゃるのです。でも、決してそうではないですよね。なので、その日のうちに折り返しがなかったといって怒る人もいれば、心の中でもやもやとしている依頼者もいらっしゃるかもしれないです。なので、こういった弁護士自身のルールということを、きちんと最初に伝えておくことが大事だと思います。

あとは、例えば、「会話中に話を中断して質問をすることがあります」、とか、「率直に事実確認をさせていただくので、不愉快な思いをさせることもあるかもしれませんが、ご容赦ください」などです。それから、「同じことを何回も尋ねてしまう可能性もありますが、ごめんなさい」、など。それから、「すぐに反応できないこともあります」。これは毎回必ず判を押したように言っています。そうすると、少しトラブルも防げるかと思っています。ポイントはこちらがやらないこと、できないことを先に伝える、そういう予測可能性をしっかりと与えておくということだと思います。

信頼、相互承認の文化

最後の要素は「信頼、相互承認の文化」です。私は、チームに大事なのは、文化だと思っています。言うまでもなく、弁護士と依頼者の関係は委任契約です。そして、委任契約の土台といえばやはり信頼です。さらに、弁護士の契約というものは、継続的であって、長いときは何年にもなりますよね。そこで、継続的に信頼を形成、維持するためには、お互いの相互承認の文化や、承認の循環が重要になってきます。つまり、何年にもわたる受任の期間中に、弁護士と依頼者などのメンバー間で承認が循環するということがすごく大事かと思っています。それが途中で切れてしまうと、だんだんと不信感や、終わったときの不満、例えば、こんなはずじゃなかったのに、といった思いにつながってしまうかもしれません。

なお、ここでいう承認とは、相手の存在価値を認める行動のことであり、「褒める」には限りません。さらに相互というところもポイントです。その意味は、私たち弁護士は、最初の段階で、依頼者から甚大な承認を受け取っているという自覚がまず必要だということです。つまり、ご依頼者は、まず、弁護士事務所を探し、相談予約を入れて、緊張しながら実際に相談に来られて、言いたくもない悩み事を話し、そして、この人に頼もうと思い、委任を決断されます。そして、一般的には決して安くないであろう着手金を支払われます。そして、個人情報はもちろん、恥ずかしいような話も全部共有してくださいますし、企業の場合は重要な非開示資料を提供してくださる関係に入ります。このこと自体が、依頼者から弁護士に対する、大きな大きな信頼と承認の付与だと思うのです。これをドカン!と最初に頂いているという認識が弁護士側にとって大変大事だと思います。

この大きな信頼と承認を受け取った弁護士がすべきことは、誠実に業務の遂行を行い、報告することはもちろん、依頼者をねぎらったり、共感を示すことで、信頼と承認を少しずつ形にして渡し続けることです。これが相互の信頼と承認の循環になると考えています。

ここで、私が好きな言葉があります。
「相互承認を土台とする関係は、互恵社会の基礎となり、社会を強靭(きょうじん)にする」というものです。今(戦時下にある)まさに、この世界に声を大にして言いたいのですが、この言葉は、国際紛争の仲裁や調停のときに語られる言葉なのですが、相互承認の文化を持つ社会は、紛争解決能力が高いということを言っている言葉です。

これは依頼者と弁護士も同じですし、時として代理人同士でも当てはまります。例えば、すごく難しい案件でも、弁護士同士で承認と信頼関係が築かれて何とか上手く行ったというご経験はないですか?それは、その事案限りで形成された、双方代理人を含むチームが相互承認によって強靭となり、人が本来持っている紛争解決能力が発揮されたものだと理解されるわけです。

というわけで、チームメンバー同士が相互承認を土台とする文化を弁護士が主体的に創っていることが大事であり、その発想や言動が、結果的に依頼者はもちろん、我々弁護士自身を支えることになると思います。ということで、今日はここまでです。長くなりました。ありがとうございました。

波戸岡:ありがとうございます。今日も素晴らしいお話をありがとうございます。なかなかここまでのお話は普通聞けないですよね。
さて、相互承認のところで、相手方弁護士や裁判官に対しても承認をするということでしたが、もう少し詳しく伺えますか。

中原:はい。まず、相手方に対してなのですが、あくまでケース・バイ・ケースという前提ですが、私はかなり直接的に承認していると思います。例えば、相手方がAさんだとすると、「Aさんにもいろいろなご事情があってのこととはお察しします」とか、「AさんにはAさんの立場というものがありますよね」とか、事件によりますけれども、結構、相手の事情も理解したいという思いを直接言語化しています。こうした発言に、あまりためらいはありません。また、何回か交渉の回数を重ねてからは、「このようにして交渉をさせていただいている中で、私は個人的にはAさんのことを信頼を感じています」とも言うことがあります。

相手方本人に対しても、相手方の代理人にも伝えます。「まだ紛争解決途上ですけれども、先生がお相手で良かったと思っています」などです。電話を切る際に「今後ともよろしくお願いします」とも言います。

波戸岡:なるほど素晴らしいですね。ところで、チームという言葉も出てきましたが、木葉さんもチームという言葉を意識しておられますよね。

木葉:はい。私は依頼者との間で、「ワンチーム」という言葉を意識的に使うことがあります。例えば、弁護士が依頼者の認識を確認しようと、依頼者に対して質問を繰り返すような場合、弁護士がよかれと思ってやっていても、依頼者からみれば、「信用されていないのかな」、「なんだか責められているような気がする」というお気持ちになることはあると思います。私は質問が多めのお打合になりそうな時は、お打合の冒頭で、「今日はひとつひとつ質問をさせていただきますが、それは、〇〇さんのおっしゃることが信用できないな、というスタンスでお聞きしているのではなくて、ワンチームとして、少しでも〇〇さんに有利なご事情はないかな、というスタンスで聞いています」という言い方をしたりします。

あとは、先程中原さんのお話の中で、相手方弁護士に対する承認のお話が出ましたが、私は、調停委員の先生に対して、双方の主張の開きが大きいので、調停委員の先生方もご苦労されていると思うのですが、とか、ご調整ありがとうございます、等とお礼を意識的に言うようにしています。

中原:それはすごくありますよね。

波戸岡:それから、中原さんのお話の中で、「文化」という言葉も出てきましたね。

中原:これは九州大学の入江先生という、紛争や調停理論について研究されている方の言葉です。そこに文化という理解、文脈を加えたのは私なのですが、このフレーズ自体は入江先生がおっしゃっていることです。私自身は、経営とは企業文化をつくることだと思っているのですが、それがチーム単位でも同じだという意味合いです。

波戸岡:なるほどです。それから、「役割」というお話もありましたね。この点、大門さんいかがでしょうか。

大門:はい。私もいろいろな反省がありまして、事務所の中でもいろいろなところの関係性で、役割は大事だと思っていて、それで阿里さんの講義を聞いて改めて思ったのですが、やはり心理的な安全性が高いチームというものは、依頼者との関係でも、事務所の中でも、ただ寛容であるということだけではなく、やはりそれぞれが役割を全うしていることです。
だからこそ、心理的安全性は高まるということを、最近は自分の失敗なども含めて、感じることがあったのです。それで、阿里さんの講義を聞いていて、そうだとすごく思ったのです。
やはり、ただ寛容で相手の言っていることを全部受け入れてあげてしまうと、それはやはりひずみが、どちらかに負担が偏ってしまい、なぜ私ばかりということが出てきてしまいます。それはクライアントとの関係でも、何でこのようなことまで弁護士がやらなければいけないのかでしたり、土日まで対応させられているというところになると、やはりお互いの関係性づくりということにすごく影響してしまうと思いました。そこをはっきりと伝えて、それぞれがその立場を取って役割を果たすということが大事だということを、改めて思いました。ありがとうございます。

波戸岡:なるほど。それから、二次的だけれどそこにある本質的な目的を引き出す、というお話もありましたね。

中原:はい。要は、我々のところにくる依頼者さんは、一次的に視野が狭くなってしまっている可能性が高いですよね。時間的な視野も狭くなっているし、つまり、未来のことを考えられなくなっている。それから、合理的な思考も難しくなっていて、相手方の悪い面ばかり考えたり、柔軟な思考ができなくなったりしておられる。その偏りをバランスの良い状態に戻すために、いろいろな質問が機能するのだと思います。その質問一つに、「本件とは離れてみると・・・」といったものもあるわけで、そこには質問する側の柔軟な目線が効いてくると思います。

波戸岡:視野が狭くなる、それを広げることも質問のパワーだったりしますよね。

中原:本当にそうだと思います。

波戸岡:枠を外したり枠を広げるなど、視点の変え方として、視点を未来に向ける質問もあれば、抽象度を上げたりという、視点の変え方の一つでもあるということですか。

中原:そうですね。おっしゃるとおり、質問の機能にはたくさんのものがあります。それ、意識して使い分けていけるようになるのがまさにコーチング的な関わり方ですよね。それを使うことで、依頼者さんがとらわれているものや、苦しくなってしまっているもの、そして、本当は手放したいのに、逆にしがみついてしまっているものに、気が付いていけます。このプロセスことが、実は、最終的に問題解決につながっていくと思います。

波戸岡:なるほど、ありがとうございます。

木葉:前に確か中原さんだったかと思いますが、質問はギフトだと思っていると「好奇心」の回の時におっしゃっていて、それを聞いたときにすごく感動して、今日の話を聞いてその話を思い出しました。

中原:本当にそうですね。質問をする前提には、そもそも、ご本人の中に何らかの答えがある、私たちが思いも寄らないような、ご自身の人生があり、様々な思いがあり、今があり、そして、未来があるんだという、根底的な敬意や尊重があるはずです。その思いを言語化したものが質問であり、相手に対するエンパワーメントというギフトにつながっていくと思います。

大門:問い掛け自体が相手を思っての気持ちの表れだとも思います。弁護士が「この件を離れて」、例えば一番大事にしていることはなんですか、と質問し、驚かれる相談者やクライアントも、いらっしゃると思いますが、そのときに弁護士も、どういう気持ちでこの件に向き合いたいと思っているのかということを、少しお話しをして差し上げてもいいのかなとも思いました。

つまり、私(弁護士)はあなた(クライアント)がよりこれから幸せに生きていくために、貢献したいという気持ちがあって、だからこそ、少しこの件と離れて、あなたが大事にしていることをもし良かったら少し聞かせて欲しいのだということ、あなたの大事な価値観を私も大切に持ちながら、この件を進めていきたいと思うので、この件とは関係ないご質問であると思われたかもしれないが、できれば聞かせて欲しいと思っているのだということをご説明して差し上げると、人によっては質問自体を受け取りやすいことがあるかもしれないと思いました。

波戸岡:なるほど納得です。阿里さん、最後に一言をお願いします。

中原:私も、自分が話していることを実行できていない部分もたくさんあるのですが、心づもりとしては、このような思いでやっています。
また、人というものは、やはり素晴らしいとも思います。依頼者さんは、いわば駄目なところを私たち弁護士に見せてくださるのですが、そんな人でも、やはり素晴らしいなあと純粋に思います。そういう意味で、今日も皆様とお話する中で、あらゆる人に対する敬意や、信頼、愛を、忘れないようにしていこうと改めて感じることができました。ありがとうございます。

中原 阿里 (なかはら あり)

CLARIS法律事務所 代表弁護士(芦屋市) ラッセルコーチングカレッジ主催 コーチ(ICF国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ/PC...

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木葉 文子 (きば あやこ)

太田宏樹法律事務所(札幌市) パートナー弁護士 コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) カウンセラー(JDAP認定メンタル心理...

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大門 あゆみ (だいもん あゆみ)

法律事務所UNSEEN 代表弁護士(東京・港区) コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) ❖企業法務を中心に、相続、夫婦問題に...

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)

アクト法律事務所 パートナー弁護士(東京・港区) BCS認定プロフェッショナルエグゼクティブコーチ (一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ ❖中小企業と...

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