直感
いが常にありました。感じたことを受け取るものは、1つのアンテナだと思うのですが、コーチングを学ぶ前は、私の中で小さなお茶碗ぐらいのアンテナしかないなと思っていました。それがコーチングのスキルを学ぶことによって、今では大きなパラボラアンテナのようになった感じがしています。結構感度がよくなり、素直に感じるようになった感覚を持っています。そして、それを依頼者に「こう感じたのですが」と言っても、依頼者の方はそれに対してフラットに受け止めてくれます。合っててもそうでなくても、「あ、波戸岡さんはそう感じたのですね」と仰ってくださり、ご気分を害されたことは確かにありません。
あともう一つ、心理学の本を読んだ時に気づいた発見がありました。それは、感じたことを話したとき、相談者から「そのとおりです」と言われたら、それはそれで嬉しいではないですか。実は直感というものは、私たち弁護士としての経験値が上がっていけば上がっていくほど、かなり正確になっていく関係性もあるようです。ブランド物などを見分けるテレビ番組もありますが、きちんと日頃からいいものを見ている、日頃から研ぎ澄ました感覚を持っている人は、直感で答えても大体合っているという、そのような裏付けもあるようです。
このテキストでは、合っていても間違っていてもいいですよということだし、そのとおりだとは思いますが、一方で、私たちもスキルを学ぶ、中原さんが先ほど言われた、磨き続ける、研ぎ澄ますことによって、より精度の高いものになっていく、そういう意味でもいい関係にあるのだろうなと思います。
中原:そうですね。脳科学的には、直感たるものは「経験、知識、理解の極みである」という考え方があります。それらが完全に高じたときに、推認等のプロセスを経ずして得ることのできる結論であるという考え方もできるようです。そこに素直になってみるということは、時として、下手に思考するよりはいいのかもしれません。
波戸岡:そういう研究結果もあるのですね。勉強になります。さて次ですが、私たちは日頃、クライアントや相談者だけでなく、利害関係が対立している人とも会うわけですが、そんなときはどうしていますか。
中原:少し雑ぱくな言い方になりますけれども、基本的には同じですね。話を聞いてほしい。話とは、自分の経験と感情を何らか理解してほしいという意味ですね。相手方であろうとも、話を聴く、ジャッジしないでただ聴き、受容する。傾聴や受容と、相手の言っている内容に同意することとは、まったく別のことです。そういう区別をこちらがきちんとつけた上で、相手の話を聴く時間はある程度必要かなと思ってはいます。そのときに、クライアントであろうと相手方であろうと、基本的なスタンス自体はかわりません。
大門:難しい相手方などの場合に、対話がそもそも難しいという方は正直いらっしゃると思います。けれども、中原さんが仰るように、クライアントかどうかの違いはそれほどないというか、やはり相手の方も聞いてほしいから、相手の方ともつながって聞くという姿勢を持つことが、結局は自分のクライアントの利益、全体を見たときの利益につながることも大いにあると思います。相手にも言い分があって、それを全部打ち返すような在り方で聞くというよりは、やはり同じようにつながって聴くということをすると、何かまたそこから活路が開けていくこともあるのかなとは思います。
波戸岡:ありがとうございます。コーチングの醍醐味や面白さは、そもそものあり方、どのように人と接するかというあり方だったりマインドという存在にかかわる部分と、一方で、ではどのような言葉遣いをすればいいのかというスキルの部分が、ある意味一緒に身につけられるところです。相手方やシチュエーションによって、依頼者と相手側とで使うスキルやテクニックなどは違ってくると思います。でも、もっとも基本的なあり方やマインドの部分では、人と接することについて、人によって使い分けたりする必要があるのだろうかということなのですね。
大門:少し付け加えると、そのような話を交渉の場でするときに、私はクライアントに許可をとって、これから相手の方とお会いするけれども、そのときにきちんとお話を聴くということをさせてもらいますと。それは別にあなたの利益をないがしろにしたり、相手の味方になるということとは全く別のことなので、そこはご理解いただけますかと。いったん私が話を聴くということが、この件について良い活路になる感じがするのでそうさせてもらいますという形で、許可をとってそういうことをすることはあります。今までの経験で、そのような対応で何か悪く作用したことはないかなと思います。
波戸岡:全く正反対に、私の知り合いの弁護士ですが、彼は相手によって態度が全然違いました。クライアントのときは「そうですよね~」などと朗らかに言いながら、対立する相手方のときは全く別人格のような態度でした。新人の頃、私も1回やってみたのですが、自分の中で矛盾が起きてきて、気持ち悪くなって自分には無理だなと思いました。だれであろうと人であることは同じなので、使い分けることはやめようと思いました。おそらく、マインドや在り方という点で一貫しているほうが、僕の中では正解かなと思っています。
中原:そうですね。私もお2人派です。皆さんもあると思いますが、結果的に相手方のほうから、「中原先生だから、もうこれで同意します」というように言っていただいたことはすごく多いかなと思っています。それで、「今度は僕の代理人になってください」などと言ってこられて「それはできません」とか(笑)、そうなるとお互いに楽というときもあります。
波戸岡:おぉ、そんなことがあるのですね。それでは、皆さん最後に一言ずつお願いできますか。
大門:きょうは直感のお話でしたが、結局何をお伝えしたかったかというと、弁護士というものは対人支援であるということです。弁護士は論理的に説明しなければならず、それは弁護士ならば当然なのですけれども、ただ、仮にその思考がご自身の可能性を制限しているとすればもったいないよねというお話です。弁護士の仕事は対人支援であり、ご自身のなかにあるものは何でも、使えるものは使って、クライアントにいいことが起これば本当に喜ばしいという心持ちで、直感というものを使っていけるといいのかなと思います。そして私も、まだまだ未熟なのですけれども、皆さまとともに、論理的知性と直感の2つを今後も使っていけるようになれるといいなと思います。少しでも何か皆さまのお役に立つことがあればよかったなと思います。
木葉:ありがとうございました。私は自分でも直感を使うことについて、自分の心のブロックが外れているかどうかが大事だと思っていまして、何か役に立つ可能性があるのであれば、そこに心をオープンにしておくことで弁護士としての可能性も広がると思っています。それがすなわち、ご相談者の利益につながることだと思っています。私自身もこれから直感の力を磨いていきたいと思っています。今日はありがとうございました。
中原:ありがとうございます。改めて、皆さんお一人お一人のご意見などがすごく充実していて、本当に学びになりました。私自身は弁護士がすごく楽だったわけではなくて、結構しんどいなと、タフな仕事だなと思いながらやってきた時間もすごく長かったし、今もそのような時があります。でも、本当にコーチングや心理学など、いろいろなことで助けられたなと思うので、またこのような場で、皆さんとこのような焦点でお話ができることを改めて感謝しています。
波戸岡:ありがとうございます。私たちは皆さんと一緒にこのように弁護士とコーチングの可能性を広げていきたいなと思っていますので、ぜひコーチングを経験した方でも、していない方でも、関心がある方たちと学んでいきたいと思っています。