直感
木葉:はい。前回、傾聴のお話をさせていただいて、その中で中断のスキルのお話をさせていただきました。私は、相談者さんが表面で言っていることと出している雰囲気が全く違うとき、お話の切れ目が無くなっているようなときに使っています。
中断を入れるときはすごく気を使ってするのですけれども、「いったんお止めしますよ」という関わりの仕方をして止めたりすることがあります。それは、例えば、相談者さんのお話の切れ目がなくなってしまっているときは、ご相談者自身も混乱していらっしゃって、それでどうしていいのか分からなくなっていることが多いと感じているからです。そういうときに、「いったんお止めしますよ」とお声掛けすることで、いったん少しクールダウンしていただいて、もしお話が幹の部分というよりは細かい葉っぱの部分に入っていってしまって、戻りたくても戻れなくなっているのであれば、お話を葉っぱの部分から幹の部分に戻して、相談の時間を実りあるものにするという関わりをしています。
ただ、すごく大事なポイントは、その「いったんお止めしますよ」の時に、声のトーンや速度、タイミングなどにものすごく気を使います。特に初対面のご相談者の場合、気を使わずに、ぽっと「いったんお止めしますよ」とさらっとやってしまうと、非常に心外でしょうし、相談の時間を実りあるものにするという目的が伝わらずに、お気を悪くされる場合もあると思っているので、本当にそこは気を使ってやっています。
波戸岡:なるほどです。中断のタイミングや仕方については、直感を含めてということなのでしょうか。
木葉:はい。そうです。直感という、まさに直に感じとる部分ですね。大門さんはどうされていますか。
大門:はい。今のお話に関連して、中断とは別のスキルで、浄化のスキルやクリアリングというものがあります。クライアントさんがとめどなくずっとお話をされるときがありますよね。そのようなときにどこでお止めしたらいいのかということだけではなく、お話を止めるか止めないかも含め、その判断は、クライアントさんの様子を見ながら行うことが大事だと思っています。この方は、ずっとお一人で悩みをかかえてこられたのだな、今はいったん全部話し切りたいのだな、胸の中にあるものを出したいというお気持ちが強いのだなと感じたときは、ある程度時間を取ってお話をお聞きする、中にあるものを出してクリアにしていただく判断をすることもあると思います。
他方で、今はお止めしたほうがいい。混乱していて本質的なところからずれてしまっている、迷路のようになっているなというときは、木葉さんがおっしゃったように、「少しお止めしますよ」というかかわりがあるのかなと思います。
波戸岡:なるほどです。話すことで浄化が起きているのか、それとも話しても混乱が続いちゃうのかなということを見極めたり、直感で感じ取ったりするのですね。このあたり、中原さんはいかがでしょうか。
中原:聴くことも浄化することも、どちらの観点も大事だと思っています。弁護士の相談ですと、長い方だと2時間3時間でも話し続ける方っておられますよね。電話でも、とめどなく話す方もいらっしゃいます。重要なのは、とにかく、クライアントと弁護士が話しているすべての時間は、クライアントさんのための時間であるという強い意識かなと思います。そして、時間が長い方が満足度が高いかというとそうでもないんです。重要なのは、聴いてもらったとクライアントさんが感じるかどうかです。その前提の上で、いま自分がどういう判断すべきか、その瞬間ごとに選択しています。まさに間を読んで意識的に選択します。ですので、私がクライアントさんの話をお止めするときにやるのは、お止めすることが必要だな、クライアントさんのためになるなと思ったときです。自分がめんどくさくなったから、とかではありません。
で、言い方としては「今、すごく大切なお話をしていただいているので、1つ聞いてもいいですか」などと言います。「あなたの話が重要だからこそ、ここで、少しお声を挟ませてください」という、相手を立てるような言い方をします。こちらの都合で止めるのではなくて、「大事なお話をありがとうございます。そこを聞いていいですか」といった感じで、そのうえで、話の流れとは全然違うことを、実は聞いたりもしますし、ただの整理に入っていったりもします。
そして、止めた後に、必ずいったんねぎらいます。「これだけお話しいただいて、本当に大変だったこと、お一人で頑張ってこられたことがよく伝わりました」という受け止めをします。クライアントさんは、話を聞いてほしいから来てるわけです。で、何を聞いてほしいかといったら、感情を受け止めてほしいのですね。「自分はこれほど大変な思いをしているのですよ!」ということを分かってほしい。なので、「あなたの大変さんは本当に伝わりました」というねぎらいをしっかりと入れます。そこで、イニシアティブがこちらにスムーズに移せます。そこからの「大切なお話なので、ちょっと質問させてくださいますか」と展開していけば、クライアントさんの気持ちを損なわずに、かつ、相談時間をまとめていくのに役立つように思います。
木葉:今、中原さんが言語化してくださった、中断プラス認知は私もとてもよくやっています。認知という別のスキルになってくるのですけれども、ご相談者様を受け止めて肯定するという関わりです。中断しっ放しは良くなくて、必ずお話くださった勇気、感情、その全てを肯定して、それで進めていくことは本当に大事で、私は中断プラス認知と自分の中で呼んでいます。
中原:そうですね。承認など、他にいろいろな似た言葉もあるでしょうけれども、いったん受け止めて承認して、ねぎらうことは、思いのほか、重要だと思います。聴いている側からすればごちゃごちゃしたお話だったとしても、私は必ず「よく整理してお話してくださいました」と言います。「この複雑な問題を」とか、「ここに来られるまでもお一人でがんばってこられて大変だったのですよね」、「よく決意して、ここに相談にいらっしゃいましたよね」と、市民法律相談などでも言います。これでその後の関係性も良くなるし、こちらの話もしやすくなりますし、この一言で流れが変わると思っています。
波戸岡:なるほどです。中断のスキルだけ切り取って学ぶのではなく、直感、認知などもあり、今相談者は混乱されているのか、浄化したいのか、いろいろなケースの中で、要は今この2人の時間をどうつくっていくか、どうクリエイトしていくかということなのだろうなと思いました。ありがとうございます。
それでは、中断を少し離れて、直感についてまた続けたいと思います。
木葉:直感の箇所を全体的に読んでみて、私は、前回扱った傾聴のレベル3がまさに直感の働く場であると捉ええています。少しこれを見ていただきたいのですが。
これは傾聴の「聴」という字です。この「聴」という漢字を見ていただくと、これには心という字が入っています。私はご相談者さんがご相談にいらっしゃったときに、ご相談の内容だけに焦点を当てて聞かせていただくのか、直感を働かせて、ご相談者の心、すなわち感情についても焦点を当てて寄り添って聞かせていただくのかで、ご相談者さんが心を開いてくださるかどうかが全く違うと実践では感じています。
例えば全然違う職業で、私たちがお医者さんを受診するときも、「こうなんですね。あなたの症状だと診断はこうですよ。お薬です。はい」という感じと、「そうですよね。少し今はおつらいですよね」などと、感情自体に寄り添ってもらえるのとでは受ける印象が全然違うと思っています。これは弁護士でも同じと思っています。ですので、感情に気付くことができるかどうかはまさに直感で、アンテナを張って、それで気付くことができるかどうかだと思っているので、私はそのためにいつも直感を使っているのだなと感じています。
波戸岡:ありがとうございます。この漢字は、特に心の部分が大事ですよね。同じ「きく」でも幾つかありますが、この漢字の意味を知るだけではなくて、木葉さんはこれを常にイメージしながら臨まれているところに非常に学びがあるなと思いました。日頃どのように直感を意識しているかという観点から、中原さんはどうですか。
中原:今の木葉さんのお話は本当にそのとおりで、弁護士が、自分の言いたいこと、たとえば、弁護士としてはわかりきった法的な答えなどを、早く言おうとしてるとき、あるいは、次の予定が迫っていてこの時間をどうやって切り上げようか、などということに固執していると、直感のようなものは生まれてこないと思います。自分の考えにとらわれているときは、直感的な気づきなどは生まれないということです。
そうではなくて、少し感覚を解放するといいますか、たとえば、部屋全体を上から見るという感じでしょうか。いまここで起きていることは、主観的な自分の頭の中のセリフ(吹き出しのようなもの)に引っ張られているという状態ではありません。自分が持っている経験や知識や理解というものが、逆に研ぎ澄まされていて、そこから推認の過程を要しない直感というものが出てくる。純粋に相手の姿が見えてくる。そして、自分の様子も客観的に見えてくる。その時に自然と生まれてきたものが直感であり、それに対して私たちが率直であるということだと思っています。
この際の直感は、違和感という言い方もできるかもしれません。「何だろう。何かこの人は少し……」といった、先ほど大門さんがおっしゃったような、「本当は怒っているのではないか」、「本当はもっと言いたいことがあるのではないか」など、ふっと浮かんでくる直感的な違和感に対して、それを見過ごさない。やり過ごさない。もちろん、言葉は選びますが、率直にそのまま出してみる。フィードバックという言い方もできると思いますが、「私はこのように感じましたが、いかがですか」ということを率直に出すことで、クライアントさんも、はっとした気付きがあると思います。
コーチングバイブルのなかで、悩んでいるクライアントに対して、コーチが「このゲームの展開を変えるとすればどういうことだと思いますか」といったくだりがあったと思います。また、クライアントさんが状況をひたすら語る、つまり「彼女がこうして、私がこうして、それでああなって、こうなって」というのが延々と続く時に、いったんコーチが間を挟んで、「何だか際限のない意地の張り合いのように聞こえますね」と言ったというわけです。これはかなり率直な発言であり、もちろん相当の信頼関係があってのことだと思いますが、こういうのもありですよね。それは、相手の言葉や自分の考えに固執することなくいったん手放して、むしろその状況を上から眺めてみる。その時に、直感として「何がこのゲームの展開を変えると思いますか」というコーチの問いが生まれてくるわけです。
これは、問題志向から解決志向への転換とも言えます。私たちは何が原因かというところに突っ込みがちだと思うのですが、それはさておき、「結局はあなたはどうありたいですか」ということです。この事件が終わった次の日に、どのような関係を築いていたいですかと、あなた自身はどうなっていたいですか、という解決の先にある未来へ一気に視点を広げていくような結び付け方もできますし、それはとても重要だと思っています。
波戸岡:ありがとうございます。今、すごくたくさんのエッセンスが入っていると思って聞いていました。感覚を研ぎ澄ませる、解放された状態になる。そして、その感覚に率直となり、見過ごさない。それが本当の解決であり、新しく今起きていることの視野を広げていく。そのようにつながるという一連の流れを教えていただいたと思います。
中原:後になってあれを聞けば良かった、少しあれを聞こうかなと思ったけれどもやめたということが、相談の場でもコーチングの場でも、人間関係でも結構あったかなと私自身も思うのですが、大体は聞けばよかったということですよね。相手もそのことを率直に話すと、「それは聞いてもらったほうが楽だった」などということが多いかなと思うので、本当にやり過ごさないほうがいいと思います。
波戸岡:そうですね。見過ごさない、やり過ごさないということは大事です。自分の話をすると、私も以前はためら