直感

大門:今回のテーマは直感です(『コーチング・バイブル』第4章)。まず直感とは何かという話ですが、これは、推理や考察など思考の過程を経ることなく感覚によって無意識に思うこと、捉えたりすることをいうと言われています。目に見えるような明確な根拠はなく、何か感じるものという、そのようなことは皆さまにも体験があるのではないかと思います。

例えば、初めて会った人だけれども、何だかどこかで会ったことがある気がするというような経験は皆さまの誰にでもあるのではないかと思います。あとは、何か胸騒ぎがしながら裁判所に行ったら、「あ、裁判官が交代だ。この件の心証はいい線を行っていたのに。。。やはり、きょうは何か少し嫌な予感がしていたんだよね。」というような、そういうことも、似たような経験は皆さんあるのではないかと思います。そういう直感、「何か感じるんだよね」というものを、皆さまの弁護士業務の中でも生かしていくことができるといいなと思い、今日はお話をさせていただきます。

直感は、コーチングでは大事な資質として捉えられています。それはこれからお話しさせていただきますが、クライアントさんの意識や行動の変容にすごくパワフルな力を持っているといわれているためです。この直感というものは、コーチの側、話を聴く側の資質としてすごく大事なものといわれているのです。
私たち弁護士は、理屈を商売にしているともいえるので、今日のこの回はハズレだなと思った方がいるかもしれないですけれども(笑)、大丈夫です。安心してください。今日は別に皆さまに占い師になりましょうというような話では全くありませんので、どうか安心して聞いていただければと思います。

直感について、これはコーチングバイブルから少し離れますが、全く脈絡のない直感と、もう一つは長年の経験や知識に基づいて、論理的な思考過程を経ることなく、何となく感覚でつかめるような直感の2つあるのかなと思います。
例えば、何となく明日は運動会をやらない気がする。何でか分からないけれども、明日は中止になる気がするなどということがあるかもしれません。例えば、ケーキ屋さんに行ってモンブランとショートケーキがあって、同じくらい好きなのだけれども、今日は何だかモンブランな気持ちがする。そういうことだと思います。本当に脈絡のない、何となくそのような感じがする、それがいい気がするなどといったことです。

この勉強会に参加してくださることも、ある意味では直感の部分があるのかもしれないですよね。コーチングは聞いたことがあるけれども、それほど知らないけれども、何かいい気がするという感じで来てくださる方もいて、それも直感を使っている部分があると思います。そのように、意識はしないかもしれないけれども、直感を使って何かをしているということは、日常的にも皆さんは無意識下でやっていらっしゃるのではないかと思います。

次は、経験に基づくものというところでいうと、「このクライアントさんは、譲歩して和解(合意)する気持ちはありますよと言っているけれども、これは多分判決ではないかな。この方は言葉ではそう仰ってはいるけれども、多分和解はしないのではないかな」といった、言っていることと反対の印象を持ったりすることなどがあると思います。そういう経験や知識が無意識下に染み込んで、後から言葉でうまく説明ができないことは結構あるのでないかと思います。そういうものが直感と呼ばれているものになるかと思います。

コーチングバイブルの中に、論理的知性と直感の2つを対比して説明している部分があります。その対比の話を少しさせていただきたいと思います。
私たちは仕事柄もそうですけれども、論理的な知性、要は「法律の条文はこうなっています。そしてこの法律の文言解釈は、●●とされています。そしてあなたのケースでは●●なので、この法律の適用がある(またはない)と考えられます」というように、論理的に説明することということが非常に多いと思います。コーチングバイブルでは、そこに「直感」の要素も加えてみると、さらに深みが増すのではないかという話が書かれています。そして、論理的に説明をする力のほかに、直感の力を使うと何が良いか、どのようなことでクライアントさんに良いことがあるのかというと、今までの既存の枠からはなれ、想定を超えた革新性が見出されたり、可能性を開くきっかけになるものではないかということが説明されています。

弁護士業務にあてはめてみますと、要は、理屈でいうとこうなのだけれども、聞く側、弁護士側がその理屈を超えたものを少しクライアントさんに持ち掛けてみるという関わりをすることができたとすると、新たな、想定を超えるような未来の道筋が少し開ける可能性がある。そのような関わりとして、直感を持ち込むということが機能するのではないかということだと思います。クライアントさんの持ってきた問題や、それに対する解決方法として、直感を使うことによって深みを増していく関わりがさらにできるようになっていくのではないかと思います。

次に、具体的な直感の使い方の話をさせていただきます。
これは皆さまも何となく経験があるのではないかと思うのですが、例えば、相談者やクライアントさんが品良く、冷静に、時折笑顔も織り交ぜながらお話をされているのだけれども、この人はめちゃくちゃ怒っているのではないかなと思ったりするときがあるわけです。例えばです。「相手にこのようにいわれてね。私ももちろん悪いところがあるんですよ。私はけんかしたいわけじゃないんですよ。」というようなことをご相談のなかでおっしゃられることがあったとします。ここで弁護士が「直感なのですが、間違っていたらごめんなさいね」とエクスキューズを入れながら、「あなたは何かすごく怒っていることがあるように感じるのですが、どうですか」のようなことを聞きます。それで、クライアントさんが「あっ」と気付いて、「もしかして何か怒っていることがあったかもしれない」と思うこともあるかもしれません。それが1つのトリガーになって、何かそこから話が展開していく。「私が怒っていたことがあるとすれば何だろう」といった思考にいくかもしれないし、クライアントさん自身が気付いていない思いだったり、大切にしているものだったり、価値観に気付くきっかけになることもあるかもしれません。

他方で、直感を使うときの大切なポイントは、直感が正しいかどうかということは全く問題ではないということです。これはとても重要なことなので、是非知っていただきたいと思います。先ほどの例のお話で、「あなたは何かすごく怒っているように感じる部分があるのですが、どうですか」と聞かれたときに、「いや、私は全然怒っていないですよ。そのような感じではないです」との返答であったとしたら、それはそれでOKなのです。それはクライアントさんが、自分が怒っていないということを自覚するというプロセスとして機能したともいえます。あるいは、「怒っているのではないけれども、でも何か別の感じがするのだよな」ということに気付くことがあるかもしれません。それは怒りという感情ではなく、では何なのだろうというところにつながる可能性も秘めているわけです。

ですので、大事なことは直感で感じたものを投げ掛けてみるということなのかなと思います。このコーチングバイブルにも書いてありますけれども、当たったか当たらないかということは全然問題ではなく、直感が正しいか正しくないかにこだわることはむしろ良くない、あまり好ましくないことですよと書かれていて、それは本当にそうだと思います。

弁護士もコーチも対人支援であり、自分にあるリソースをクライアントさんのために使うというかかわりをすることが大事なのであって、自分の直感にこだわることが大事なのではありません。当たったこと、外れたことに一喜一憂するのではなくて、あるものを出してみる。それで、それほど機能しなければ流せばいいですし、もし効果的に機能したらラッキー、クライアントさんに役に立つことが起きれば素晴らしいということなのです。なので、「今、直感でこう感じたのですが、どうですか」と投げかけてみて、「そうかもしれない」となれば、それはそれでいいし、「違います」となったら、「ああ、そうなのですね」という感じで終わればいいのです。直感というものはそのように使うもので、そこに変なこだわりを持つものではないということがポイントです。

ですので、弁護士としてご相談を受けたり、打ち合わせをするときに、自分にあるリソースを何でも使おうという心持ちで、自分の中から出てきた論理的ではない直感のようなものも、クライアントさんのお役に立てばいいかなという気持ちで使っていくといいのではないかと思います。コーチングバイブルにおいても、そのようなかかわりの一つとして説明されています。

最後に、直感がどのようなときに生まれるかという話も書かれていたので、少しお話します。直感というものは本当に面白いもので、直感を使おうと思うと出てきません(笑)。それはむしろ思考のマインドに入ってきてしまうので、出づらいのですね。自分がリラックスした状態で、ハートが開いた状態でいるときに何かふっと湧いてくるものなのではないかと思います。つまり、直感を使うというよりは、リラックスしながら、相手とつながってお話をお聴きするなかで湧いてきたものを「今、ふと思ったのですけれどもね」というところで、お伝えしてみるというかかわりになることが多いのかなと思います。

少し長くなってしまったかもしれませんが、きょうはコーチングバイブルの4章の中で書かれていたことを、弁護士業務とのかかわりの中でお話しさせていただきました。

波戸岡:大門さん、ありがとうございます。今、レクチャーをしていただいて、幾つかポイントがあったかと思います。
まず、論理的知性と直感の違いですね。私たちはつい論理と直感は相反するもののようにとらえてしまうけれども、そのようなものではなくて、論理の上に直感を加えるとむしろ深みが増したり、また新たな発見や、今まで考えたことのない枠からはみ出すような、新しい思考に導いてくれるパワーが生まれるということです。

それから、直感は正しいか正しくないか、間違っていたらどうしようという不安が私たちには一瞬あったりします。それが原因でためらいが生じたりするけれども、当たっているかどうかとか、正しいか正しくないかは全然重要ではなくて、その感じたままをフィードバックする、出すというプロセスに非常に意味があるということですね。クライアントさんが、「そのとおりです」と仰っても、「そうではないです」と仰っても、そういう状態に気付くこと、そのプロセスに意味があるということですね。

次に、直感というものに素晴らしいパワーがある、可能性があるということは分かったとして、ではどう使おうかと考えてしまうけれども、そこは使おうというものではなくて、コーチングバイブルではこれを「感じる」と書いてあります。大門さんは「むしろ湧いてくるもの」といった表現をされていて、なるほどなと思ったところです。このテキストのエッセンスと、それから日頃の業務の中でどうこれを活用していくかというお話で、私も聞いていて勉強になりました。

大門:こちらこそ、ありがとうございます。

波戸岡:さて、コーチングバイブルでは、直感の章のなかに「中断のスキル」というものが出てきています。実際のところ、依頼者の方の話を中断するというのは、なかなか難しいですが、直感との関係ではどのようにとらえればよいでしょう。前回の木葉さんのお話の中でも「中断」というキーワードが出てきたかなと思いますが、木葉さん、いかがでしょうか。

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大門 あゆみ (だいもん あゆみ)

法律事務所UNSEEN 代表弁護士(東京・港区) コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) ❖企業法務を中心に、相続、夫婦問題に主に取り組む。クライアントが自分を守り大切にするために、法律家としての専門的知見のみならず、自分の持っている全てのリソースを用いてクライアントを支援したいと...

プロフィール

木葉 文子 (きば あやこ)

太田宏樹法律事務所(札幌市) パートナー弁護士 コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) カウンセラー(JDAP認定メンタル心理カウンセラー) ❖「企業と人の可能性を引き出す」ことを大切に、中小企業法務、労働、離婚・親権、相続、破産管財事件等を中心に取り組んでいます。弁護士である一方...

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中原 阿里 (なかはら あり)

CLARIS法律事務所 代表弁護士(芦屋市) ラッセルコーチングカレッジ主催 コーチ(ICF国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ/PCC) 米Gallup社公認ストレングスコーチ/行動心理士/上級心理カウンセラー ❖英文科卒業後、広告代理店・社長秘書を経て結婚。娘2歳で離婚、働きながら「ひ...

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)

アクト法律事務所 パートナー弁護士(東京・港区) BCS認定プロフェッショナルエグゼクティブコーチ (一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ ❖中小企業とビジネスパーソンをもりたてるパートナーとして、法的アドバイス、対外交渉、契約書作成・チェック、人事労務問題の予防・解決を中心に取り組んでいます。 これまでの...

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