行動と学習
大門:フランクリンルーズベルト(アメリカの元大統領)の言葉で、こういう言葉があります。「批判する人に価値は無い。観客席から行動した人間を指してどうすれば良かったとか、どんな風につまずき失敗したのかと指摘するだけの人に価値は無い。埃と血と汗にまみれて努力した競技場に立つ人に名誉は与えられるのだ。競技場に立つ人は、うまくいけば勝利を得るし、失敗すれば敗北を喫する。しかし、失敗し敗北したとしてもそれは果敢に挑んだ結果なのだ」。
挑戦するとき、批判されることってありますよね。そういうことを恐れて挑戦をしないという人もいると思います。批判されるのは私も恐いです。でも、私も挑戦するということ自体に価値があると思うのですよね。なので、皆さんにそこが響いているのが、私はすごく感動しました。
中原:私は、スタートアップ企業の支援などもしているのですが、彼らは信じられないぐらい失敗を重ねていくのですよね。そして、失敗を許容します。チャレンジを推奨し、失敗を認める文化というのは、成長の軌道、特に初期においてはすごく原動力になりますし、心理的安全性の発露でもあります。この文化の中で、実際に個人も組織も成長していくことを体感させてもらっています。そして、私がクライアントさんに言うのは、「あえて1日1回失敗する機会を持ってみよう」です。成功から学ぶことが1だとすると、失敗からは1000学べるからです。やはり挑戦する人は輝いていきますね。
波戸岡:ありがとうございます。私たちはクライアントからもたくさんのパワーや気付きをもらっていますよね。それから、「居心地のいい場所から飛び出す」「生き生きとする」という記述もありますね。
木葉:「居心地のいい場所から飛び出す」ことを依頼者に薦める前提として、「あなたには、居心地のいい場所から飛び出す力があるのだよ」ということを、弁護士が心から信じることができているかが大事だと思っています。「あなたはその勇気がある人です、私も信じています」というところを弁護士が強く持っていることは、非常に大事だと思います。
波戸岡:なるほどです。それはすぐに生かせそうで、やってみたいです。
それから、「コーチのエゴを満たすためではなく、クライアントの人生と成長に奉仕するために行う」という記述がありますが、ここはいかがでしょう。
大門:本当にそう思いますね。これには私は1個エピソードがあって、私は昔はすごく説教をする人だったのです。嫌なやつですよね(笑)。ロースクール生だったときに、私はとても経済的に苦しかったので、まじめに勉強しない学生が許せなくて、そういう学生に、「なぜ親にお金を出してもらって、きちんと勉強をしないのか。本当に親に失礼だ。」というようなことを言っていました。本当に嫌なやつですよね(笑)。そしてそれは「相手のためだ」と表面では思っているけれども、今振り返ると自分の不満を満たすためのものでした。それは自分のエゴで行ったものですよね。今は逆にそういうことはなかなか言えない人間になってしまい、それもそれなのですが(笑)。でも、本当にその人のためを思って言っているかどうかというのは本当に大事で、自分の満たされなさを取り繕うために人を批判したり注意するのではない。仮に同じ内容を伝えるのであっても、本当にそれが相手の成長を願って言っている発言なのかというのは、やはり伝わってしまうと思うのです。そのため、ご指摘されていたポイントは、私もとても大事なポイントだなと思いました。
波戸岡:ありがとうございます。きっとそうですよね。私はかつてコーチングの神様と言われているマーシャル・ゴールドスミス博士の話を聞きに行ったことがあります。
そのとき、「コーチとしてうまくいかないことがたくさんあるんだ」と、皆さんが口々に質問するのです。けれど彼の答えは全部、「それは君のエゴだよ、吹き飛ばせ」というような感じだったのを覚えています。
それから、「コーチとしてクライアントの本来の姿を呼び覚ますためには、コーチである自分自身を呼び覚ます必要があります」、ここも興味深いですね。
木葉:これは次のテーマの「自己管理」とすごく関わってくる点ですよね。自分にストッパーのようなものがかかっていると、自分にも言えないことは人にも何となく言いにくいというのが、すごくあると思うのです。なので、自分が本当にその人の人生にいかに真剣に関わることができるのか、何をお伝えできるのか、ということには、弁護士自身がどれだけ自分の人生に真剣に向き合っているのか、ということがすごく影響してくるなと思っています。なので、次の「自己管理」のところでぜひ熱く話させていただきたいと思います。
中原:本当におっしゃるとおりで、コーチとして、対人支援として、もちろん弁護士として、まず自分自身をよく理解して自分を受容して、日々自分と向き合うということが第一だと思います。
対人支援場面では、クライアントさんが、我々コーチを通して自分を見るわけです。つまり、我々が鏡となるリフレクション効果が起こるわけです。ということは、私たちがゆがんでいると、クライアントさんはゆがんだものを見てしまう可能性があります。その観点からも、コーチ自身が整っていることは、本当に一番大事だと思うのですよね。自分であるということを、受け入れて認めるということは、そんなに簡単ではないときもあるけれど、でもそこに向き合うことは大事。自己受容があってこその、他者受容です。この点は声を大にして言いたいところです。
波戸岡:ありがとうございます。次回の内容もますます楽しみになってきました。最後に一言ずつ、皆さんお願いします。
中原:皆さん、ありがとうございました。次の行動を確認したり、行動を一緒に決めていったりということは、弁護士として本当に大事だと思っています。人は自分が自分で選んだという自覚があることに対して、それに喜びを感じるし、それを自ら守ろうとします。判決より和解のほうが履行率が高いと言いますよね、あれもその心理を使っていると思うのですね。だから、「弁護士や裁判官に言われたからこうした」ではなくて、「弁護士さんと話し合って私はこうしました」と言えるような関係性になるといいなというのを、改めて思いました。ありがとうございました。
木葉:今日はありがとうございました。弁護士として依頼者の行動を促進する、「薦める」関わりの根底には、弁護士と依頼者の間に信頼関係が必須で、信頼関係がなければ薦めるも何も空回りで終わってしまう、ということになってしまいますので、改めて、信頼関係を築くために、どのような関わりをしていくのか、言葉の使い方からもう一度見直してみたいと思いました。
大門:ありがとうございました。クライアントさんが行動するということについて、やはりコーチ側、弁護士側が、「大丈夫!」と言ってあげられる力強さのようなことが、とても大事なのかなと思います。結果を保証することではないのですが、「あなたは大丈夫。一緒にいるから」ということを、どれだけ力強く言えるのかというのは、聴く側がまず自分自身を呼び覚ますということにも影響してくるでしょうし、それが言葉だけではなくて、本当に伝わるということが大事なのかなと。今日皆さんの「失敗を恐れない」であるとか、そういうお話をお聞きして感じたことでした。ありがとうございました。
波戸岡:今日は「行動と学習」というテーマで、本当に学びが多かったですし、また「失敗」というのは非常に刺さるテーマだったかなと思います。
最近私がすごいなと思った本で、『進化思考』という本があります。
生物がどのように進化してきたのかを知ることで、新しいものを創造していくためのヒントを得ようというものです。生命の進化では、生命は常に遺伝子を複製していくわけですが、その複製の過程で必ずエラーが起きる。そのエラーが起きることによって初めて新しい進化が生まれる、だからエラーは必要であり、必然なのだという話で、目からうろこでした。
皆さん、今日も充実した時間をありがとうございました。