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緊張する相談者にどう向き合うか ― 弁護士が築く信頼の第一歩

あなたがもし、人生で初めて法律事務所の扉を叩くとしたら、どんな気持ちになるでしょうか。
胸に押し寄せる不安、緊張、そして「うまく話せるだろうか」という戸惑い――。
それは、法律相談に訪れる多くの人が抱く、ごく自然な感情です。

今回ご紹介するのは、そんな相談者の気持ちに寄り添い、円滑な事件受任と信頼関係の構築をめざす弁護士の関わり方です。単なる「技術」ではありません。「人と人」として向き合うために、弁護士が心に留めておきたい基本姿勢です。

1. 初めての相談に緊張する相談者には

初対面の相談者は、話がうまくまとまらないこともあります。
そんなとき、弁護士が一方的に「早く話してください」と急かしてしまうと、相談者はますます萎縮してしまいます。

効果的なアプローチはこうです。

  • まず明るく自分から名乗り、丁寧な挨拶をする。
    「暑い中、よくお越しくださいました」という一言が、相談者の緊張を和らげます。
  • 「今日は60分しっかりお取りしていますので、ゆっくりお話しください」と伝える。
    これにより、相談者は「急がなくていいんだ」と安心し、自分のペースで話しやすくなります。
  • 相談者に許可を取りながら、弁護士側から質問をリードする。
    「差し支えなければ、こちらからいくつかご質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
    こう声をかければ、相談者も安心して受け答えできます。

さらに、「質問中でも言いたいことがあれば、遠慮なくお話しください」と伝えておくと、相談者の言葉を引き出しやすくなり、事案の本質にも早く辿り着けるのです。

2. 名前の呼び方への配慮

人は、自分の名前に強い思い入れを持っています。
だからこそ、呼び方ひとつで尊重されていると感じたり、逆に不快感を覚えたりすることがあります。

家事事件などでは、相談者も関係者も同じ苗字ということがよくあります。
このとき、「区別のために下のお名前でお呼びしてもよろしいですか?」と一言、許可を取るのが重要です。
相談者に無断でいきなり「A子さん」と呼べば、馴れ馴れしく感じられてしまうかもしれません。

また、「ご主人」「奥様」といった表現も注意が必要です。
ジェンダー感覚が多様化している今、なるべく中立的な表現(例:「配偶者さん」「相手方」) を心がけたいところです。

小さなことに思えるかもしれませんが、こうした配慮の積み重ねが、相談者との信頼関係を着実に育んでいくのです。

3. 感情的な話に終始する相談者への対応

相手方への怒りや長年のわだかまりを抱えた相談者は、相談中も感情的な話を繰り返すことがあります。
「それでは法的にこうなります」と事務的に結論だけを伝えても、心に届かないことも多いのです。

このようなとき大切なのは、

  • まず感情を受け止めること。
    「そのように感じられるのですね」と、まずは共感を示します。
  • その上で、法的な話に少しずつ戻していくこと。
    「お気持ちはよくわかりました。その点も踏まえて、法律上どう整理できるか、一緒に考えてみましょう」といった具合に、対話をつないでいきます。

感情を無視して法的結論だけを押しつけても、相談者の納得は得られません。
「感情を受け止め、事実を整理する」――この両輪を意識することで、受任後のスムーズな案件処理にもつながります。

まとめ ― 「話を聞いてくれる人」としての弁護士像

法律相談は、単なる情報提供の場ではありません。
相談者にとっては、人生の一大事に関わる大切な対話の時間です。

だからこそ、相談者の緊張や不安に寄り添い、名前一つ、声のかけ方一つに細やかな心配りをすることが求められます。
そして、感情に揺れる相談者に対しても、真正面から向き合い、事実と感情の両方に目を向けることが、信頼関係の礎になります。

「この人なら、安心して任せられる。」
そう思ってもらえる弁護士であるために。
小さな工夫を積み重ねることこそが、最大の力になるのです。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この会では、隔月1回、テーマを決めてレクチャーと対話を行っています。このブログでは、その中から、私たちが話した部分の要約を載せています。コーチングの可能性を多くの弁護士の方々に知ってもらえれば幸いです。
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