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法律相談は“心の交通整理”から始まる

「今日は、これまでの経緯を30分で伺い、後半30分で今後の方針をご一緒に考えましょう」

たったこの一言が、クライアントとの関係性に大きな違いを生むことがあります。

法律相談に訪れる人の多くは、不慣れな状況のなか、不安や怒り、悲しみといった複雑な感情を抱えています。頭の中では整理がついていないことも多く、「どこから話していいのかわからない」「この想いをどう伝えればいいのか」と迷いながら弁護士の前に座っているのです。

そんなとき、弁護士が果たすべき役割の一つは、法的な論点整理だけではなく、相談者の話や感情の“交通整理”を丁寧に支援することです。ただ情報を仕分けるのではなく、話の流れを整え、感情の渋滞を少しずつほぐしながら、前に進める状態を一緒につくっていく――それこそが、専門職として、そして一人の人間として求められる姿勢ではないでしょうか。

法律相談とは、相談者の“人生の交差点”に立ち会うこと。そこでは、「聴く力」もまた弁護士の大切な技術となるのです。

言葉に宿る配慮──「事実」ではなく「言い分」、「問い詰め」ではなく「確認」

弁護士が依頼者に尋ねるとき、「〇〇という事実は本当ですか?」と問うと、それは「あなたが嘘をついているのでは?」という含みを与えてしまうことがあります。

そこで、

「訴状に記載されている相手方の言い分について、Aさんのご認識はいかがですか?」

と聞けばどうでしょう。これは、あくまで相手の言い分を整理し、依頼者の視点を確認したいというフラットな姿勢を示す表現です。言葉ひとつで、依頼者の安心感も、弁護士への信頼も大きく変わるのです。

相談者の防御反応に寄り添う

相談者が止まらずに話し続けることがあります。それは単なる話好きなのではなく、

  • 「弁護士にちゃんと理解してもらえるだろうか」
  • 「否定されたら、もう立ち直れない」

という不安と防御反応から来ている場合もあります。

こうしたときには、話の腰を折るのではなく、

「Aさんは、育児も仕事も本当に一生懸命取り組んでこられたのだと思います。連絡帳や写真も、大切な資料としてしっかり残されていて、すごいことですね」

といった承認と共感の言葉を添えることで、相談者は「この人になら話して大丈夫」と心を開きます。これが、事実確認や方針整理の前提として極めて重要な関わりとなるのです。

弁護士と依頼者は「協力し合う関係」

特に訴訟対応などで、弁護士が依頼者に事実確認を続けていくと、まるで相手に詰問されているような感覚を与えてしまうことがあります。

そうした誤解を避けるために、このように伝えることが大切です。

「私が質問をするのは、Aさんを信頼していないからではありません。有利・不利を問わず、すべての事実を正確に把握して、Aさんの立場をきちんと守るためなんです。一緒にやっていきましょう」

このような言葉には、“弁護士=依頼者の味方”という関係性を明確に共有する力があります。たとえ厳しい局面でも、信頼関係があれば、打合せも主張整理も、粘り強く続けることができます。

人の言葉を、人として受け止める力

最後に大切なのは、相談者や依頼者の言葉を「情報」や「証拠」としてだけでなく、「人生の一部」として受け止める姿勢です。

たとえば、

「せっかくご相談にお越しいただいたので、これまでの経緯が今後の方針にどうつながるのか、一緒に整理していきましょう」

という一言には、相手の話に“意味”を与える力があります。相談者自身が「話してよかった」「自分の声が尊重された」と感じることで、真の意味での信頼が生まれるのです。

おわりに

弁護士に求められるのは、法律の知識や戦略だけではありません。

  • 相手の感情に寄り添い、
  • 言葉を尽くして信頼を築き、
  • 複雑な事実を共に整理し、
  • 最善の道筋を協働して描いていく

そのプロセスこそが、「人として向き合う」弁護士の本当の姿ではないでしょうか。

法律の力だけでは届かないところに、人の力が届きます。


最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この会では、隔月1回、テーマを決めてレクチャーと対話を行っています。このブログでは、その中から、私たちが話した部分の要約を載せています。コーチングの可能性を多くの弁護士の方々に知ってもらえれば幸いです。
また、会へのご参加に興味がある方はぜひご連絡いただければと思います。参加資格はコーチングに関心のある良心的な弁護士でしたら、経験の有無は問いません。

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10月15日(水)、12月17日(水)
9:15~10:30(Zoom) 
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