弁護士×コーチングの実践例 by徳田隆裕
波戸岡:今回は、いつもメンバーとして参加してくれている徳田隆裕さんに、「弁護士×コーチングの実践例」をテーマにお話しいただきました。
徳田:私は63期で、ちょうど2021年12月で弁護士になって11年がたちました。37歳で、金沢合同法律事務所に所属しています。現在、金沢弁護士会の副会長を2021年4月からやっていまして、あと残りの任期が4カ月ありまして、これが今、すごく大変です。何が大変かといいますと、弁護士会に来る苦情の処理をしていまして、その辺も後で話したいと思います。
私は銀座コーチングスクールの認定プロコーチという資格を持っています。もう一つはコミュニケーション能力検定1級というのを持っています。日本コミュニケーション能力認定協会がありまして、ここでコミュニケーションの勉強をしました。
私がコーチングを学んだきっかけなのですけれども、ある和解協議のときに、クライアントから「先生はどちらの味方ですか」ということを言われました。和解協議の場でクライアントの思いや感情を無視して、和解を押し付けたということで、クライアントからすると、あたかも相手方の味方をしているのではないか、と思われたのです。「おまえはどちらの味方だ」というのを率直に言われまして、これが結構きっかけとなって、コミュニケーションの勉強をしなくてはと思って、コーチングとコミュニケーション能力検定というものを学びました。
ここで皆さんに質問なのですけれども、顧客は弁護士に何を求めるのでしょうか。『弁護士ドットコムタイムズ』という、弁護士ドットコムに登録している先生には毎月送られてくる雑誌があるのですけれども、顧客は弁護士に何を求めるかといいますと、まず専門性です。
専門性をまず第1に求めていて、その次に費用、その次に人柄、信念、信条というところなのですけれども、恐らく、人柄というところはコミュニケーション能力ではないかと思っています。どれだけ優秀な弁護士であっても、とても愛想が悪かったり、全然話ができないという方には、恐らく顧客は、依頼しないのではないかと思っています。ということなので、私としてはこの専門性というのと、コミュニケーション能力を高めなければならないと考えて、いろいろ努力をしてきました。
そもそもコミュニケーション能力がなければ、法律相談で依頼者から信頼されないわけです。そもそも、信頼がなければ、事件を受任できないので、このコミュニケーション能力は、弁護士にとって、受任率の向上につながっているのだと思っています。
今、顧客は、恐らくですけれども、知り合いに弁護士がいなかったら、インターネットで検索をかけます。そこから、ホームページや弁護士ドットコムのポータルサイトなどをいろいろ検索して、そこで、まず事務所に問い合わせたり、メールやLINEで問い合わせをします。そこから、法律相談を受けて受任をすることで、初めて弁護士の売り上げが成立します。この検索から問い合わせまでのところが、いわゆるマーケティングで、私は今、ここをYouTubeで頑張っているというところで、この法律相談から受任のところをコーチングなどのコミュニケーション能力を使って、上げているということになります。
私が学んだコーチングの定義というのは「パフォーマンスの向上のために対話によって対象者を勇気づけ、気付きを引き出し、自発的行動を促すコミュニケーションスキル」です。
全ての答えはクライアント自身が持っているというのが、このコーチングマインドというもので、ここが恐らくコーチングと法律相談の違うところだと思っています。質問をして、クライアントに自発的に話すことを促して、クライアント自身が持っている答えを引き出すというのが、コーチングなのですけれども、法律相談では、クライアントの問題を解決するために、アドバイスをするのであって、クライアントが答えを持っているというよりも、弁護士が答えを持っていて、それを伝えるという点で少し違うのだと思っています。
例えば、私はよく労働事件の相談を受けるのですけれども「会社をクビになりました。どうすればいいですか」という相談が来たときに、「あなたはどう在りたいですか」という形でコーチング的な質問をすると、クライアントは「いやいや、そのようなことは聞いていません」と言うはずです。「どうすれば解決できますか、ということを聞いているのです」ということになります。そのため、解雇の法律相談では、クライアントに対して、「就労の意思を明確にして、解雇理由証明書の交付を求めましょう」、「労働審判の申し立てをしましょう」という形で、解決のアドバイスを提示していきます。
なので、コーチングでは、クライアントが答えを持っているのですが、法律相談では弁護士が答えを教えるという、ティーチングとコーチングの違いです。ということで、違ってはいるのですけれども、コーチングのスキルというのは、クライアントとの信頼関係を築く上で、法律相談に活用できると私は思っています。特に、弁護士というのはクライアントと信頼関係を築かれなければ、どのような勝ち筋の事案であっても、非常にやりにくいですし、終わった後もすっきりしないということなので、クライアントと信頼関係を築くというのが弁護士にとっては非常に大事だと考えています。
そこで、これから少し、私が銀座コーチングスクールで学んだスキルを簡単に説明していきます。
まず1つ目は、「認める」です。これは相手の言うことをそのまま受け止めるということで、なぜこういうことをするかというと、相手に安心して話してもらうわけです。クライアントは、弁護士のところに初めて来た時、そもそも弁護士とはどのような人だろうですとか、自分の相談は本当に解決するのだろうか、という形で不安を抱いて来ます。そのようなクライアントに対して、安心して話をしてもらうために、この「認める」というスキルが大事になります。それほど難しいことではなくて、相手の言葉をそのまま受け止めるということです。ニュートラルに、その人の言っていることを受け止めるということです。自分が考えていることとは違ったとしても、クライアントにとっての真実をいったん受け止めるということです。「受け入れる」わけではありません。「受け止める」です。
具体的には、相手の言葉に適切に反応するということで、例えば、うなずいたり、相づちを打つということです。「ああ、そうなのですね」ですとか、「それは大変ですね」という形で対応するということです。単に何も言わないと、クライアントとしては、「この人は本当に話を聞いてくれているのだろうか」と思うわけです。他にも、同じ言葉を繰り返すということで、感情の言葉を繰り返すと、相手の人は、分かってもらえる感が出てきます。「大変だったのですよ」→「大変だったのですね」という形で、クライアントの感情の言葉を繰り返すということです。
2つ目は「聴く」ということです。この「聴く」という目的は、相手に気持ちよく、たくさん話してもらうために聴きます。例えば、ペーシングといいまして、話す速度です。相手が早く話しているときは、こちらも早く話しますし、相手がゆっくり話せば、こちらもゆっくり話すということです。あとは声のトーンです。相手の声が高いときには、こちらも高く合わせるということも、大事になってきます。
もう一つは、接続詞を使って聞くということで、私が結構これをやるのは、刑事事件で余罪を聞くときに、「他にないですか、他にないですか」と聞くと、結構いろいろ余罪のことを聞けたりします。そこから、具体的に掘り下げていくときには「具体的には、具体的には」と聞きます。あと、「それからどうなったのですか」というように、「それから」という形で、接続詞を使って聞くことで、クライアントからの事実関係の聞き取りがしやすくなると思いまして、これらの接続詞を使って、私は結構クライアントとの打ち合わせをしています。
3つ目は「質問する」です。あくまで、今まで言ってきた「認める」と「聴く」というスキルを使って、クライアントと信頼関係を築いた上で、「質問する」ということになります。コーチングの質問というのは、相手の中にあるものを引き出す、ということで、気付きを促すための質問なので、ここが弁護士の法律相談とは若干違うのです。弁護士の法律相談では、あくまで事件の解決に必要な情報を集めるために、クライアントに、質問をするのですけれども、ときにはやはり、クライアントに、気付きを促すこともあります。
例えば「ここまで話をしてきて、今、何を感じていますか」という形で、クライアントがわーっと話していて、何か混乱していて、少し方向転換をしたほうがいいときに、「今まで話してきて、どう感じていますか」という質問を投げると、クライアントがはっとしてくれて、次の話にいきやすいということがあります。
4つ目は「フィードバックする」です。相手の話を聞いて感じたこと、見えたこと、聞こえたことを、そのことをそのまま伝えるということで、相手の許可を得て行います。「聞いていて感じたことを伝えていいですか」のように言います。そして、「アイメッセージ」という、「私には○○のように聞こえますが、いかがでしょうか」という形で聞きます。
このアイメッセージは、例えば、夫婦間で、私の場合は夫なので、妻がこちらが希望することをやってくれなかったときに、妻に「私は君がこういうことをしてくれると、嬉しいんだけどなぁ」と言うと、妻が動いてくれることがあります。自分からのユーメッセージで、「あなたがやってよ」と言うと、当然、相手から、反感が来るわけなのですけれども、「こうしてくれると、私は嬉しいんだけどな」と言うと、相手は意外と動いてくれたりするので、配偶者がいる先生方はやってみたらいいと思います。
例えば、離婚の法律相談で「離婚すべきかどうか迷っています」と言う方がいます。そういった場合に、「私が気付いたことを話してもいいですか」という形で、「本当は一緒にいたい、復縁したいと思っているのではないですか」ですとか、「本当は離婚したいと思っているように聞こえましたよ」のような形で言うと、クライアントに気付きを与えられるというので、離婚の相談などではフィードバックを使うことが結構多いです。
あとは、銀座コーチングスクールでは、コーチングを始める前に、「アイスブレーク」をやるということを教わりました。私の場合は、私の事務所がある金沢市内は、結構一方通行の道が多くて、事務所が分かりにくい所にあるので、相談が始まる前に「うちの事務所は分かりにくい場所だったのですけれども、迷いませんでしたか」という形で、いきなり法律相談に入る前に、アイスブレークをしてから、話しやすい雰囲気を出すようにしています。
あと「守秘義務」です。銀座コーチングスクールで、「コーチは守秘義務を負っていますということをきちんとクライアントに説明しましょう」と教わり、これは弁護士の法律相談でも使えると思いまして、相談が始まる前に、「弁護士は秘密を守る義務を負っていますので、安心して話してくださいね」と伝えます。われわれからすると、弁護士が守秘義務を負っているというのは当たり前なのですけれども、お客さんからすると、そもそもそのようなことは知らない人も多いのです。なので、きちんと「弁護士は秘密を守るので、今日の法律相談では安心して話してくださいね」と伝えると、法律相談が始まる前に少し場が和んで、クライアントが話しやすくなっているというのを実感しているので、私はいきなり本題に入る前に、アイスブレークと、この守秘義務の説明をしてから、その後に「本日はどのようなことで相談に来られたのですか」と聞くようにしています。
先ほどご紹介したように、私は、現在、金沢弁護士会で副会長をやっています。副会長の仕事は、委員会に出たり、執行部会があったり、常議員会があったりで、会議に時間が取られるというのも大変なのですけれども、弁護士会にかかってくる苦情の電話の対応をしなければいけないというのが、なかなか大変です。
苦情の電話の対応をしていて、対応している弁護士にも少し問題があるのではないかと思うこともあります。
苦情の中で一番多いのは、依頼している弁護士に話を聞いてもらえていないということで、クライアントと弁護士のコミュニケーションが不全になっているのです。ですから、弁護士会に一言文句を言いたいということになるのです。苦情の話を聞いていると、弁護士とクライアントがうまくいっていないという事例が結構あって、その根本原因は、弁護士がうまく話を聞いていなくて、クライアントに不満が募っているのかな、というのを実感しているので、そのような苦情を聞きながら、やはりコミュニケーションは大切だと思って気を付けるようにしています。
コミュニケーション能力を向上させることで、選ばれる弁護士になれるのではないかと考えます。皆さまとのコーチングの勉強会は非常に役に立っているということで、以上で講義を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
徳田隆裕(とくだたかひろ)
弁護士法人金沢合同法律事務所 パートナー弁護士(金沢市)
銀座コーチングスクール金沢校で、認定コーチの資格を取得しました。
労働者側での労働事件を専門にしています。
解雇、残業、労災、パワハラといった労働問題で困っている労働者を笑顔にするために日々尽力しています。
ブログやYou Tubeで、働く人が会社とトラブルになったときに役立つ情報を日々発信しています。
労働事件において、最高裁判所の前で「勝訴」ののぼりを掲げられるような、働く人を勇気づけられる最高裁判決を勝ち取り、働く人が報われるように社会を変えていくことが夢です。
趣味は、子供と遊ぶ、運動をする、美味しいものを食べる、読書、登山などです。
ブログ→https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog
You Tube→https://www.youtube.com/channel/UCWJQX9xTgXZegEOHZUidsdw