好奇心

木葉:ありがとうございます。私が今回気になったのが、コーチングバイブルの中にある「お伝えしたいのは、あなたが行う質問の影響、特にコーチングにおける質問がもたらす影響に気付いてほしいということです」という文章です。
先ほどの大門さんの解説を聞かせていただいて、「そうだよ、そうだよね」と思ったのですけれども、弁護士が質問をさせていただく前提にマインドがあって、目の前の人を一人の人間として尊重して尊敬の念で見ているかというところは、好奇心とつながっていると思っています。そこが欠けていて、目の前の人を、問題を持ってきた人、問題を解決しなければという目で見ていると、質問の質感が冷たい感じになってくるのです。弁護士としては、情報を収集して問題解決につなげていくというのはやるべきことなのですが、まずはマインド、信頼関係を築く好奇心というのが大事で、そこがあっての質問ですよね。質問をするのに、大門さんが言った、責めるインパクトを出す質問もあるし、あとは、質問によって相手に力や元気、勇気を与える質問もあります。私も人と接していて、この人と話していたらとても元気になるという方がいる一方で、何でこの人と話していたら、終わった後になぜか元気がなくなるような、自分は駄目だと思うような感覚になってしまうのだろうかと、いろいろな方がいらっしゃると思っています。

ですから、弁護士として気を付けているのが、勇気を持って相談に来てくださっている、そういう方に、自分が責めるインパクトを出すつもりがなくても、ご相談者に責めるインパクトを与える可能性がある事項については、質問をする前に、「今から、今後の方針を整理していくために、これこれについてお聞きしますが、もしかしたら、自分のここがいけなかったのかな、等お考えになる必要は全くありませんよ。〇〇さんは、その時その時で精一杯頑張って来られたと思います。」とお伝えする等、工夫が必要だと思っています。また、弁護士が、「この質問は特に責めるインパクトを与えるものではないな」と考えて特に前置きなく質問した後に、ご相談者が「責められたような感覚になっておられるんだろうな」というのが目の前で起きた時は、「責める意図ではなくて、こういうことを確認する必要があったので、聞かせていただきました」等、必ずフォローするように努めています。

波戸岡:ありがとうございます。まさに質問の与える影響力、それをまた敏感に感じ取るアンテナというか、そこは傾聴という部分にも重なってくるでしょうけれども、好奇心を持って質問をしたら終わりではなくて、そこからキャッチボールが始まり、お互いの信頼関係も育まれていくということですね。
中原さんはいかがでしょうか。

中原:こんにちは。好奇心というタイトルがすごく良いですね。そして、別の切り口で言えば「質問」というテーマで分類することもできると思います。私たち弁護士は、質問する生き物だと思います。ですから、質問にいろいろなものがあるということ、質問によってどのような作用が起きるのかを、よく知っておくことは、質問を使いこなすためにとても重要なことです。極論すれば、質問の質は、弁護士としての在り方、生き方の基盤になるといってもいいほど重要だと思います。もちろん、弁護士としてだけではなく、人としても他者とかかわる以上、常に重要なことだと思っています。

そして、先ほど大門さんがおっしゃった、紛議や困難事件というものが、我々の仕事には実際にありますよね。扱いが難しい事件です。で、その困難事件というのは、法的に難しいというよりは、依頼者とか相手方などとの対応ややりとりが難しい、人的トラブルの側面がかなり強いと思うのです。先生方も、一番のお悩みは、依頼者との関係だったりしませんか?お悩みというか、ストレスの多くは、コミュニケーションの不全であることが多いと思います。

もともと、依頼者と相手方との間では、何らかのコミュニケーションの不全があって、それが解決できなくなって弁護士のところに来られます。我々弁護士は、その不全状態をなんとかするために代理人として関わるわけなので、もしも、弁護士と依頼者、弁護士と相手方が、コミュニケーション不全を起こしてしまったら、本当に困難になってしまいます。

クライアントさんとしては、弁護士のところにわざわざ相談にやってくるというのは余程のことです。よほど話を聞いてほしい状態ですし、ほかでは自分の話を聞いてもらえなかった!と思っている人です。自分の言っていることが正しいかどうかは別として、いったん受け止めてもらうという経験さえ持っていない人がすごく多いと思うのです。その、とてもとても自分の話を聞いてほしい人に対して、目の前に立つ私たちが、「話を聞いてくれた人」になるのか、それとも、「全然聞いてくれなかった人」になるのかは、本当にこちら次第だなと思うのです。

そして、話を聴いてもらったと思ってもらえるかどうかは、時間の長さではないと思っています。3時間聞いてもまだまだ不満で、もっと話したい人もいるかもしれませんし、30分でも十分落ち着くというか、「きょうの人はずいぶんとよく聞いてくれた」と感じることもあると思うのです。

その違いは、その時間に、事実確認だけではない、好奇心に基づいた質問がどれくらい含まれていたのか、そう感じていただけたのかということが大きいと思っています。「それは誰が言ったの」「それはいつの話ですか」「それ、誰の発言ですか」など、込み入った依頼者の話を整理して、事実を確認することはもちろん大事です。しかし、「それはあなたにとってどんな意味があったんですか」「その時、どんな感情が生まれたんですかね」「その時にあなたの行動によってどんな変化がありましたか?」など、当事者の当時の思いに寄り添って臨場するような問いです。

これは、心理学でいえば、カール・ロジャーズのいう「無条件の肯定的関心」というものに近いと思います。ロジャーズは、臨床場面でありながら、患者ではなく、クライアントという言葉を初めて使った人で、つまり両者の対等性を重視しました。対等な立場で、木葉さんがおっしゃったように、「相手を尊重する」という思いで聴くことができる、それが、好奇心の生む効果の一つだと思います。

波戸岡:ありがとうございます。日常用語では好奇心というと、「私には好奇心がある」とか「好奇心がない」など、そういう振り分けで使っているけれども、まさに今の中原さんのお話では、無条件で、フラットな形で、好奇心をどのように持つのかによって、関係性をつくっていけるということですね。
コーチングバイブルでも、「好奇心の筋肉を鍛える」という言い方をしていますね。実は、好奇心というのは最初からあるないではなくて、つくっていくものなのですね。

コーチングの面白いところは、見えないものをないものとして扱うのではなくて、あるはずだと信じ切るところですね。「この人はこんな表情をしているけど、きっと楽しいこと、わくわくする時があるはずだ」とか「今はネガティブなこと言ってるけど、きっとポジティブな可能性があるはずだ」というマインドであり、スキルであり、それは筋肉のように鍛えていけるということですね。
木葉さん、改めて、きょうの好奇心のテーマで、感想をお願いできますか。

木葉:はい。今日の皆さんのお話を聞いていて、単純に、私も改めて自分のあり方に気を付けようと思いました。まず、マインドの部分なのですよね。マインドの部分が、質問の端々に現れると思っています。人生を頑張って生きてきた、その方が今目の前に来てくださっているのだというところの尊敬の念が、きちんと自分の中にあるのかと、ご相談者とお会いする前に自分の中で再確認するのが大事だと思いました。

波戸岡:ありがとうございます。中原さん、お願いできますか。

中原:はい。「ヒト」と「コト」を分けるのがすごく大事だなと思います。われわれは「コト」に向かいがちです。まさに事件は「コト」なのですが、事件の内容はともかく、あくまでここにいるのは「ヒト」であるということ、そして、コトの中には、法的なコトもあるわけで、そこはジャッジの対象です。しかし、「ヒト」はジャッジの対象ではなく、常にその存在を全面的に受け入れていいということを、心に常に置いておきたいということです。

私は、質問は贈り物だと、ギフトだと思っています。渡したあとに、相手がそれをどうするかは相手の自由です。自分が相手に贈ったものを、相手に毎日身に付けてほしいなど思っちゃだめですよね、それは贈った方のエゴかと思います(そう思うこと自体は悪くないですが、相手に強要とかできませんよね)。愛を持って選んで問いという形で相手に贈り、その後は手放すという思いも大事だと。

そして、さきほどのお話でも出たとおり、全ての人が常に大きなビジョンをすぐ描けるわけではなくて、それほどビジョンを描けない人は、確実にいらっしゃると思うのです。それは、ものの捉え方にもよるし、その時の状態にもよると思います。そして、それが悪いとかダメとかいうわけでももちろんありません。

ハイビームな質問とロービームな質問という言い方がありまして、車のライトのハイビーム・ロービームのイメージです。ハイビームは、ちょっと遠くを照らすイメージ。ビジョンの問いはハイビームっぽいですよね。一方で、「今現在、これだけは譲れないということは何かありますか」などというのは、ロービームな質問です。ロービームもとても大事です。これも好奇心に基づいて、しかし、現実的な近くを見ながらしっかり寄り添って問いを立てていくという思いから生まれると思います。できるだけ両方を照らしながら進めていけるといいなと思います。

波戸岡:ハイビーム、ロービーム、なるほど、ありがとうございます。
大門さん、最後にお願いできますか。

大門:はい。「情報を聞くための質問」というのは、決して悪いわけではなくて、私たちにとっては必要不可欠なことです。弁護士は、クライアントさんからお話をお聴きする際にはそこに意識が行きがちですが、自分のなかにある好奇心というのを持ち込むとさらにいいよねというのが今回のお話でした。皆さんのお話をお聴きして、私も改めて気付いたことが色々とありましたし、皆さんの中にも何かあったらいいなと思います。ありがとうございました。

波戸岡:ありがとうございます。今日はいろいろなエッセンスを学べました。
また、「無邪気な質問」という言葉が何度も出てきました。これは、私もコーチングのレッスンを受けた時に、「何を遠慮をしている?ためらいを生じさせているのは何ですか?」ということはよく聞かれていました。そんなとき、よく子どもが無邪気に問いかける「空は何で青いの」を思うと、あれは本質的だなと。空は何で青いのかと純粋に知りたい。別に自分がどうこうとかあなたがどうこうではない、ためらいも必要ない、そのピュアさに実はパワーがあるというのですね。
今日も貴重ないい時間を過ごせました。ありがとうございました。

大門 あゆみ (だいもん あゆみ)

法律事務所UNSEEN 代表弁護士(東京・港区) コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) ❖企業法務を中心に、相続、夫婦問題に...

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木葉 文子 (きば あやこ)

太田宏樹法律事務所(札幌市) パートナー弁護士 コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) カウンセラー(JDAP認定メンタル心理...

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中原 阿里 (なかはら あり)

CLARIS法律事務所 代表弁護士(芦屋市) ラッセルコーチングカレッジ主催 コーチ(ICF国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ/PC...

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)

アクト法律事務所 パートナー弁護士(東京・港区) BCS認定プロフェッショナルエグゼクティブコーチ (一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ ❖中小企業と...

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