好奇心
波戸岡:今日は好奇心というテーマです(『コーチング・バイブル』第5章)。大門さん、お願いします。
大門:はい。今日、最初に知っていただきたいことは、相手に好奇心・興味を持つということは、相手に対する貢献なのだということです。このことを頭の隅に置きながら聞いていただけると嬉しいです。
まず、「質問」の種類に関して、コーチングバイブルには2つ、「情報収集的な質問」と、「好奇心に基づく質問」との2つがあると書かれています。
情報収集的な質問は、私たちは日常業務の中でよくやっていると思います。例えば、貸す側から「借用書を作りたいんです」という相談が来たとします。そうすると私たち弁護士は、「誰に、いつ、いくら貸すのでしょうか。利息はどうしますか。弁済期はいつにしましょう。」などの話を聞きます。これが情報収集的な質問です。
質問された相談者は、私たちの質問を聞いて正解を探します。頭の中で、自分のなかの正解を探して「300万貸します。弁済期は1年後です。」というように答えを話していきます。
もう一つが、好奇心に基づく質問というものです。
これはどういう質問かというと、先ほどの借用書のことでいうと、例えば、「どんな気持ちでお金貸すことにしたんですか。」と聞くことなどです。これが好奇心に基づく質問です。借用書を作成するための情報を集めようとしているわけではなく、「●●さんは、貸金業者でもないですし、こんな大金を貸すってリスクがあるじゃないですか。返ってこない可能性もありますし。それなのに、こんなに大きなお金を貸すってすごいことだと思うんですが。」というようにお話をした上で、「ちょっと聞きたくなっちゃったんですが、どんな思いでこの方にお金を貸そうと思われたのですか。」というようにお尋ねします。これが好奇心に基づく質問です。
そして、この好奇心というのは、コーチングバイブルには、「会話に持ち込む好奇心豊かなマインドセット」でもあるというように書いてあります。ちょっと理解が難しい表現のようにも思いますが、これは何かというと、在り方のことを言っていると思うのです。質問の具体的な言葉字体も大切なのですが、聴き手がクライアントに、本当に子どものように無邪気なまなざしで、「どういう思いからなの?」というような質問をなげかける在り方、人に興味関心を持つ在り方からの問いということだと思います。
好奇心に基づく質問をすると、クライアントさんは、「何でだったかな。どんな思いだったかな。」というように、自分の中を見つめだすことをされます。それを、聴く側も一緒に探求していくような質問、これが好奇心に基づく質問といわれています。クライアントさんが、自分のなかの正解を探すというよりは、「どんな思いなんだっけ?」というように自分を見つめる、それを促す関わりとしての質問が好奇心に基づく質問といえると思います。
これは以前あったことなのですが、突然、夜に友人の社長さんから連絡があり、「ちょっと、明日借用書を作りたいんだけど、お願いできなかな。」との依頼がありました。私は、社長さんに、「急いでいるんですね。ご事情は色々とありそうですが、どんな思いでお金を貸すことにしたんですか?」とお聞きしました。そうすると「どんな思いか。そうだね……」とおっしゃいました。お話をきくと、起業後間もないベンチャー企業が黒字倒産しそうだということでした。その社長さんは、「ぼくは彼らの始めたビジネスを応援したいんだよね。彼らの可能性を守ってあげたいんだよね。」とおっしゃるのです。私はそれをお聴きして、「それは素晴らしい思いですね。応援の意図が込められているんですね。」とお答えし、対話につながりました。そして、「じゃあ、そういうことなら、私、夜なべして借用書作りますよ!」と言って、夜な夜な作りました。このような対話が、好奇心に基づく質問から生まれたともいえると思います。
このような好奇心に基づく質問により、この社長さんに何が起きたかというと、自分自身が力付いたということもあったかもしれません。自分は今、こういう思いでこのお金を貸すと決めたのだと、自分を見つめて、あらためてその思いを掴む、ということがあったかもしれません。
先に進みます。「好奇心は信頼関係を築く」という項目があります。これは何の話をしているかというと、情報だけを聞く会話は、時によっては相手を不安にさせてしまうということも同時に語られています。先の例でいうと、情報として聞く文脈で、「何で貸すの?」という質問をすることはもちろんあると思います。「貸してって言われたからです。」「相手が困ってるからです。」など、もちろん回答としてはお聴きできると思いますが、逆に、情報だけを仕入れようという会話は、やや冷たく、聴き手は自分に関心がないのだというインパクトを与えることもあるかもしれません。
そうではなくて、聴き手が興味関心を持って、「そういうふうに決めたのってどんな思いなんですか。」、「何を大事にしてるからそういうふうにお決めになったんですか。」というようにご質問をすると、信頼関係も築かれていくと思うのです。
これも先ほどお伝えしたように、在り方だと思います。アイスブレイクなどがコミュニケーションで大事だというので、取り入れていらっしゃる先生がいるというお話はよく聞きます。それもすごく素晴らしいことだと思います。アイスブレイクとは、緊張を解きほぐすための会話です。「今日はいい天気ですね。」や、「迷わずにお越しいただけましたか。」というような会話です。私はそれも本当に素晴らしいと思うけれども、スキルとしてそういったことを取り入れるだけではなくて、より本質的に相手に興味を持ち、「それって素晴らしいですね。」、「そういうことを大事にしてるんですね。」というような会話を、好奇心に基づいて質問すると、より深い信頼関係が築かれていくことがあるのかなと思います。
さらに進んで、「好奇心を意図的に活用する」という項目もあります。これはどういうことをいっているかというと、元々ない好奇心を出しましょうということではなくて、元々ある好奇心を意図的に、クライアントさんのために使いましょうということをいっているのだと私は理解しています。
コーチングの時間もそうなのですが、法律相談の時間というのも、その時間はクライアントさんだけのための時間なのです。自分のための時間ではありません。だから、自分の好奇心、自分が相手に持っている興味というものを存分に発揮して、「クライアントさんのなかで発見があるといいな。気付きがあるといいな。」という思いを持ちながら、クライアントさんと一緒に探求していきます。
そういう意味で、好奇心に基づく質問というのは、ただ聴き手の興味のために聞きたい、自分が個人的に興味があるから聞きたいことを聞くということではなくて、「相手のために」聴き手の好奇心を使いましょうということを言っているのだと思います。
そして、またさらに先に進んで、「好奇心の筋肉を鍛える」ということなのですけれども、これも、好奇心から湧き上がってくる質問をするということが大事だということが書かれています。
でも、もしかすると、弁護士の皆さんには少し躊躇があるかもしれません。弁護士に相談しているのに、「こんな関係ないことを聞いちゃっていいのかな。」というような躊躇です。そういうときには、「ちょっと好奇心から質問してもいいですか。」というように、前置きをするのもいいかもしれません。私は、「すみません、ちょっと聞きたくなっちゃったんですけど」というように言ってから、好奇心に基づく質問をさせていただくこともあります。
それから、ここでお伝えしたいことがもう一つあります。例えば、法律相談を受けているときに、クライアントさんが涙を流されたという経験が、皆さんにもあるのではないかと思います。そういうときに、そのクライアントさんに「涙を流していらっしゃるけれども、今どんな思いが巡ったのですか。」と聞いてみられたことはあるでしょうか。これも好奇心に基づく質問だと思います。これは、少しハードルが高いかもしれません。クライアントさんの深い部分、コアな部分にぐっと入り込む質問の一つだと思うからです。もしかしたら、弁護士がそのようなことを聞いていいのかなと思われる方もいらっしゃるかもしれないです。
でも、私の個人的な意見かもしれないのですが、皆さんの前でクライアントさんが涙を見せたとすれば、それは、皆さんの前で自分は泣いてもいいという許可をクライアントさんが自分に出したということだと思うのです。それは、皆さんの在り方が、クライアントさんに、この弁護士さんの前では涙を流しても大丈夫だという許可を出したと、私は思うのです。私は、一定程度心を許した相手ではないと、人は人の前では涙を見せないと思うのです。だから、そういうときに、ぐっともう少し踏み込んだ質問を、好奇心からしてみます。「どんな思いが今、巡ったんですか。もしよかったら、聞かせてもらってもいいですか。」とやさしく、丁寧に聞いてみます。もしかすると、そういう質問もクライアントさんのためになるのかもしれないなと思います。
ここまでが好奇心のお話で、次に、スキルの話に行きます。ここで、「拡大質問」のスキルが紹介されています。
拡大質問というのは、「パワフルクエスチョン」とも言い換えられているのですけれども、聴き手が挑戦的に問い掛けることで、言い逃れとか混乱に終止符を打つ質問と、このコーチングバイブルでは説明がされています。
でもここでは定義はあまり重要ではないと思っていて、開かれた質問や、新しい角度でクライアントさんに気付きをもたらす質問であればいいのではないかと個人的には思います。基本的に拡大質問には、「はい」や「いいえ」などで答えられる質問というのは殆どなくて、クライアントさんが自分の言葉で答えることで、クライアントさん自身が学びを深めたり、新たな視点を掴むために効果のある質問だと思います。
そのため、拡大質問は、できれば端的なほうがいいのです。長い質問は、質問自体にクライアントさんの意識が行ってしまうので、できれば短い質問がパワフルなクエスチョンだといわれています。例えばでいうと、離婚の相談の際などに、本当に端的に「パートナーのどんなところが許せないですか。」などと聞いたりすることです。本当に単純でシンプルな質問です。契約書の作成のご相談のときは、「この契約を締結することで、どんな可能性が広がるんですか。」、「どんないいことがあるんですか。」、「どんなことが起きるんですか。」というような、本当に端的な質問です。難しい質問ではありません。
そういう端的な質問のほうが本質的な質問だったりするので、こういう意図で訊いているというような、正確さはあまりなくてもよいと思います。抽象的な質問になりがちであるため、「それってどういう意味で聞いてますか。」などと聞かれてしまうこともありますが、極論、どういう意味で捉えてもらってもいいと思います。問いを受け取ったクライアントさんに問いの意味を解釈してもらって、そして自分を探求して出てきたものが、大事なものなのだと思います。
そして、これもティップス的な話だと思うのですが、「どうして」や「なぜ」など、そういう質問は、ときに相手を防衛的にさせることがあるので、その使い分けを意識的にしたほうが良いと書かれています。これは何をいっているかというと、例えば、待ち合わせに遅刻してきた人がいたとして、「なぜ遅刻したの?」と聞くと、遅刻をしたことをまず非難しているインパクトを与えがちです。そういうとき、私は「何があったの?」と聞くようにしています。それは、その遅刻したことを責めるインパクトを極力出さない言い方ですが、「なぜ遅刻したの?」という質問と同じことを聞いています。そういう意味で、聴き手は、言い方に意識的になりましょうねということを言っているのだと思います。
他方で、先ほどの言い方も、「なぜ遅刻したの?」と無邪気にあっけらかんと聞けば、それほど責めるインパクトを与えないこともあると思います。ですので、言い方がすごく重要ということではなくて、「どうして」「なぜ」「何で」のような質問の仕方だと、受け取り手によっては責めるインパクトを感じてしまう場合があるということに、質問する側は意識的でありましょうということを言っているのだと思います。
長くなりましたのでそろそろ結びとさせていただきますが、仕事で誰かに貢献したいと思っている人で、全く人に興味がないという人はたぶん殆どいないのではないかと思うのです。好奇心をクライアントさんのために使うということを意識することが大切で、「弁護士に相談しているのだから、こんなこと聞いちゃいけないのではないか。」というようなことはあまりなくて、「ちょっと気になったのですが、お尋ねしてもいいですか。」というように、質問をしてもいいのではないかと思うのです。
それは、興味のないことに興味があるふりをするということではなくて、自分が好奇心のある状態でいることを許可するということだと思っています。そういう自分であるということが、「弁護士」としての自分として在るというよりは、弁護士でもあるユニークな一人の人間として、クライアントさんと関わるということの大きな礎の一つとなるのかと思っています。
レクチャーは以上になります。聞いてくださってありがとうございます。
波戸岡:ありがとうございます。この約20分間の時間で、2時間ぐらいの講義を聞いていたのではないかというぐらい、内容の濃い話をしていただきました。ありがとうございます。
今のお話の中で、幾つか大きなテーマがあったかと思います。まず、そもそもは在り方、もしくはマインドセットの問題であって、情報を取る質問も大事だけれども、純粋な「あなたに関心があるんです」という気持ちがスタートになり、そこから無邪気な質問が生まれてきて、一緒に探求していきましょうという姿勢が大切なのですね。それがクライアントにとって非常に大きな力となり、また同時に、クライアントと弁護士との関係性も強くなっていき、信頼関係もそこから生まれてくるということですね。
また、好奇心は、あなたのことに興味があるということで、法律相談や打ち合わせの時間というのは、そもそもクライアントであるあなたのための時間であって、あなたの中に、もしかしてあなたも気付いていないものを探しにいきましょうということなのですね。
その上で、そうはいっても、クライアントは法律のアドバイスを求めて来ているのだから、好奇心に関する質問をすることに対して、時々、私たちは、躊躇やためらいがおき、聞いていいのかなという迷いが起きます。けれども、そこにあえて踏み込んでいくのが大切ということです。一つ分かりやすい例として、クライアントが泣いてしまうなど、いろいろな表情を示されたとしても、それはその感情を出すことをクライアントは自分に許したということ、つまり弁護士に対して許可を与えたことなのだから、それに対して踏み込んでいきましょうということです。
最後に、スキルとして、特に拡大質問をピックアップしていただいて、短く本質的な質問、そして無邪気な質問の有用性を解説していただきました。
さて、大門さんのお話を踏まえて、木葉さんは、好奇心についていかがでしょうか。