傾聴
大門:今回は「3つの傾聴レベル」というテーマでお話をさせていただきます(『コーチング・バイブル』第3章)。
レベル1の傾聴は、コーチングバイブルでは「内的傾聴」と書かれています。
よくありそうな法律相談を例にとって話をします。例えば、お父さんが亡くなり(被相続人はお父さん)、相続人は子である長男及び次男の二名だけで、お父さんが生前に公正証書遺言を作成していたというケースを想定しましょう。そして、弁護士は次男から相談を受けています。次男はこのように言います。「お父さんは遺言書を作った日の3カ月前には『遺産は長男次男に等分に分ける』と言っていました。でも遺言書には『長男に一切の財産を相続させる』と書いてあります。遺言書は、お父さんの本当の意思が反映されたものであるはずがありません」。相続案件を扱われている弁護士の先生方であれば、一度はこのようなご相談を受けたことがおありなのではないでしょうか。
弁護士がレベル1の傾聴をしているときは、クライアントさんが「生前から子どもを二人とも公平平等に扱うのがお父さんのモットーでした。だからこういう遺言書は父が自分の意思で作るはずがないのです。長男にそそのかされて書いたに決まっています。」というような痛みに満ちたお話をされていても、「そうは言っても、お父さんにはきちんと意思能力もあるし、公正証書遺言だし、遺言無効を争うことはまず難しいよな。何て言って説明しようかな。」などということが弁護士の頭のなかをぐるぐるまわってしまっています。これがレベル1の傾聴です。私もかつてはよくやってしまっていました。
自分の声が大きく聞こえてえてしまっている状態、クライアントさんの声に耳を傾けるというよりは、既に「この話の結論はこうだな。これを伝えなければいけない。」という自分の声が自分の頭のなかに浮かんできて、この傾聴をしている最中は、そのクライアントさんの痛みに満ちたこれまでのお話は、まともに耳に入って来ていません。
自分の声を聞いて、自分が次に伝えることなどを考えながら聞いてしまうような状態、つまり自分の声に意識が行ってしまっているのがレベル1の傾聴です。クライアントさんのお話は一応は聞いていますが、それよりも自分の声が大きく聞こえている状態です。
次に、レベル2の傾聴です。レベル2の傾聴はコーチングバイブルには「集中的傾聴」と書かれています。これは、クライアントさんに全集中して聴いているという感じです。クライアントさんとつながっていることを感じ、クライアントさんの声を本当に聴いている状態です。先ほどのケースでいえば、「こんな遺言書が出てきて、本当に驚いたんです」と次男さんが言われたときに、弁護士が自分の意識を少し脇に置いて、「そうなんですね。すごく驚いたんですね。それは驚きますよね。だってお父様は昔はそういうふうに言っていなかったですものね。そうですよね」と言って、クライアントさんに本当に集中して、クライアントさんの声を聴いている状態です。自分の声はそのときは脇に置かれています。クライアントさんが何を感じているのか、今どのような感情なのか、どういうことに傷ついたのか、何に驚いたのかなどということを、クライアントさんが話している言葉や表情から読み取って、対話をするというのがレベル2の傾聴です。このような傾聴をしているときは、聴く方もクライアントさんに集中しており、クライアントさんの痛みや感情が自分に流れてくるような、つながりを感じられる状態になっています。
次の、レベル3の傾聴は少し難しいかもしれません。今度は集中しているというよりは、少し外側からクライアントさんを見る傾聴です。コーチングバイブルには「全方位的傾聴」と書かれています。クライアントさんに全集中しているというよりは、クライアントさんを俯瞰して、クライアントさんを全方位的に見ているような傾聴になります。これはクライアントさんが何を話しているかということだけではなく、その人から発せられている熱量など、目に見えないものも感じ取りながら対話をするかかわりです。
例を挙げてみたいと思います。
皆さん、こういうことはありませんか。社長さんと話していて、「御社のビジョンは何ですか」などと聞きますね。社長さんが「これこれこういうことがうちのビジョンです」と言ったときに、社長さんによってはおなかの底からお話しになるような人もいれば、棒読みのような質感で話される人もいますね。いつもは明るくて、熱くお話しをされる感じの社長さんだけれども、ビジョンを聴いたときは、暗記したものを出しているような感じがして、ビジョン自体の言葉の意味としては本当に素晴らしいのだけれども、聴いたときにあまり思いが伝わってこないなと感じることはないでしょうか。表面的な言葉と、受け取る感覚に違和感があるとか、そういう感覚を持つことは、皆さんも何となく経験があるのではないかと思うのです。言っている言葉の内容はすごくしっかりしていて、話している表情も普通だけれども、何か違和感がある、この人はしっかりと腹落ちさせて話していないのではないかという、そうした感覚的なものとして受け取ることは日常の中でもあるのではないかと思います。
それを意識的に使って、クライアントさんを全方位的に見る、集中しているというよりは、いろいろな角度から「おや?」という気付きを持ってかかわる聴き方になります。何となく伝わりましたでしょうか。
こうした傾聴レベル3で社長さんと対話をするとき、社長さんに「そのビジョンは素晴らしいですね。でも社長さん、今ビジョンをお話になってみて、ご自分でしっくり来る感じがありますか」などと聞くわけです。もちろんこのような語りかけをするには、信頼関係がある程度できていることが必要ですが、でも信頼関係ができている社長さんですと「たしかに、話していて違和感があるな」、「自分のビジョンが適切に表現されていない感じがあるな」、「そういえば最近、ビジョンがしっくりこなくなっている感じがあるな。」というように、社長さん自身の気付きにつながり、感覚的なものを呼び覚ますことができる場合もあります(もちろん、聴き手の違和感は、いつも的を得ているというわけではないので、「しっくり来てますよ」と返されることもあります。聴き手はこのように返されたときにがっかりする必要はありません。この問い自体に意味があるか否かはクライアントが判断することであり、結果としての聴き手の違和感の当否は問題ではないことも是非知っていて欲しいです。この問いを投げること自体が聴き手の貢献なのです)。
このレベル3の傾聴は相当に感覚的なものなので、言語で説明することが私も上手ではなかったかもしれませんが、何となくでもレベル1、2、3の傾聴の内容と違いはご理解いただけましたでしょうか。
そして、対話としてのかかわりという意味で傾聴をするというのは、レベル2と3で傾聴するということです。自分の中の声はいったん脇に置いて聴くというのがレベル2、レベル3の傾聴になります。
ちなみに、法律相談では、レベル1の傾聴が全部なくなることはあり得ないと思っています。ご相談者さんは対話だけをしに来ているわけではないので、弁護士はご相談者さんのケースについての法律的な説明をし、アドバイスをすることがもちろん必要になります。けれども、対話としてのかかわりはレベル2、レベル3のことだということを今お伝えさせていただきました。
波戸岡:ありがとうございます。傾聴の3つのレベルの話をしていただきました。
さて、このことはコーチングバイブルにも詳しく書いてありますが、読んでいて感じたことや気づいたところなどはありますか。