質問スキルを高めよう-代表的な質問法と6つの視点-
先日の「弁護士×コーチングの可能性を広げる会」勉強会では、質問のスキルとそのバリエーションについてお話ししました。
コーチングは、対話を通じてクライアントの目標を明確にし、その達成を支援するコミュニケーションスキルです。コーチの語源が「目的地へ連れて行ってくれる馬車(coach)」からきているように、コーチはクライアントに適切な質問を繰り返しながら、クライアントが叶えたい目標は何か、その達成のためには何が必要で、どのように行動すればいいのかを、ともに見つけていきます。
コーチは、「答えはクライアントの中にある」「クライアントには解決する能力と可能性がある」ことを大前提に、「聴く」「質問する」「フィードバックする」「提案する」などを重ねることで、クライアントが目標達成のために必要なマインドやスキルを身に着け、目標に近づけるように支援を行います。
その中でも質問スキルは非常に重要だと言われています。自分自身でも気づかなかった本心を探り出し、引き出していくために、コーチは効果的な質問に努めます。
私の考える「効果的な質問」は、真っ暗な洞窟の中で行先を照らすような、そんな導きとなる質問です。そのために、質問者は「洞窟の中には何があるのだろう」「この人は何に興味をもっているのだろう」と好奇心を持って相手と向き合うことが大切です。質問者の高い好奇心が質問の力も高めていきます。
コーチングの代表的な2つの質問法
コーチングには良質な質問をするためのさまざまな質問スキルがありますが、その中で代表的な2つの質問スキルをご紹介します。
ひとつ目は「オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン」です。
オープンな質問とは、「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」と5W1Hに即して質問する手法です。この質問スキルを使うと、質問された人は自由に考えを思いめぐらせることができます。
「あなたならどんな未来を実現したいですか?」「それが実現するとどんないいことがありますか?」と思考を解き放ったりストレッチさせることで、相談者の選択肢が広がります。
他方、クローズドな質問は、「はい」か「いいえ」で答えてもらうような質問です。
「契約しますか?しませんか?」など、二択を迫られるので、思考が広がることはありませんが、自分の覚悟を確かめることができたりします。
ふたつ目は「チャンクアップとチャンクダウン」です。チャンクはかたまりを意味しています。
チャンクアップは、思考を上へ上へと上げていく、具体から抽象にしていく質問形式です。
例えば「母とはいつも話がかみ合いません」と相談された時、「そうなのですね」と会話を終わらせるのではなく、「本当はお母さんとどのような関係でいたいですか」「あなたにとってお母さんはどんな存在ですか」という聞き方をしていきます。抽象度を上げることで、相談者は自分のことを俯瞰でき、自分にとって大切なものは何なのかが見えてきたりします。
他方、チャンクダウンは抽象を具体にしていく質問形式です。
「どういうときにそりが合わないと感じるのですか」「今度お母さまとお会いした際には、どんな言葉を使って話しますか」などと場面や状況を絞っていくことで、より具体的なイメージや行動が見えてくる効果があります。
どの質問が優れているということではなく、場面によって質問を使いわけ、その目的と効果を意識して質問スキルを用いていくことが大切です。
よい質問をするための6つの視点
私は、よい質問をするためには、明確な目的を持って質問をすることが大切だと考えています。そのためには、以下6つの視点からの質問を心がけるといいのではないかと思っています。
- Whatを問う:その言葉の持つ意味や背景を探る
- Visionを問う:未来や理想、どうなりたい?を問う
- Missionを問う:目的や使命感、期待されていることを尋ねる
- Valueを問う:価値観や信条、大切にしていることを探る
- Ifを問う:もしも~。人、時間、場所、状況を変えてみる
- Elseを問う:ほかには?それから?と横展開する
12分間のコーチングにチャレンジ!
勉強会の後半では、二人ひと組となり、実際に質問をする側、される側を体験してもらいました。コーチング体験の感想を一部ご紹介します。
●たくさん質問をしてもらうと、自分に興味を持ってくれているなと感じて、とても話しやすくなりました。
●抽象的な質問をしてもらうことで、自分の弁護士としての価値観や願望に思いを至らせることができました。
●価値観に触れる質問は、コーチ側も勇気がいることだと感じました。
●具体的な質問によって思考がほぐれ、整理もできました。自分が話した言葉の中から新しい質問へとつないでもらえたので,思考が一気に広がりました。
●質問することで掘り起こされるものがあるということが、すごくよくわかりました。
前半の質問のレクチャーを踏まえて質問をしていただいたため、12分という短い時間の中でも質問の力を強く感じることができたようです。
コーチングを仕事に取り入れ、どんなに経験を重ねても、依頼者との対話の後、「自分の質問は役に立っただろうか」「いい質問ができただろうか」という思いは残るものです。しかし、それでもよいと私は考えます。依頼者と一緒に答えを探していく、弁護士がそのような姿勢で丁寧に質問をしていくことに意味があると思います。
「先生に依頼してよかった」「安心しました」「これからの人生を自分で歩んでいけます」と言ってもらえる弁護士となるためには、弁護士業は対人支援だということを心にとめて依頼者に向き合う必要があります。
興味を持たれた方はぜひ、コーチングの要素をご自身のお仕事に取り入れてみてください。