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法律で助けられないときだからこそ

法律相談に訪れる人の多くは、「助けてほしい」という思いを胸に抱えながら、不安や怒り、悲しみといった複雑な感情と向き合っています。
それは、法律の相談でありながら、どこか心の声を誰かに聴いてほしいという想いでもあります。

人生の中には、法律という道具だけでは解決が難しい問題も存在します。
たとえば、近隣の人との関係がうまくいかず、悪口を言いふらされているように感じている―
そんな相談があったとき。
このようなケースでは、弁護士としてつねに法的な介入ができるとは限りません。
ですが、ただ「法的に無理です」と伝するだけでは、相談者の想いや気持ちは置き去りになってしまうことがあります。

まずは、話してくれたこと自体を受け止める

相談がはじまったとき、弁護士として最初にできることは、相談者の声に寄り添うことです。

「ご近所の方に不快な思いをさせられて、本当に辛かったのですね。」

その言葉には、「話してくれてありがとう」という気持ちが込められています。
相談者が口にした言葉をそのまま受け止めることで、「自分の話を否定されない」という安心感が生まれます。
それは、単なる事実確認とは違う、人としての安心感です。

弁護士と相談者の間ではじめに交わされる言葉は、その後の関係性を左右します。
だからこそ、まずは気持ちに寄り添う姿勢が大切です。

これまでの努力にも価値がある

次に尋ねるのは、「これまでどのように過ごしてきたのか」ということです。

「今までどのように対応されてきたのでしょうか?」

その問いは、相談者自身の歩みを尊重する言葉でもあります。
多くの人は、私たちのもとに来るまでに、自分なりに多くの努力や工夫をしてきています。
警察に行ったり、無料相談に足を運んだり、友人に相談したり、自分の力でできる限りのことをしてきたのです。

「お一人で、ここまでよく向き合ってこられましたね。」

そう言葉にすることで、相談者の努力と向き合う姿勢が認められ、思いがけず心が軽くなることがあります。
人が誰かに認められる瞬間は、安心感につながるのです。

強い思いを言葉で伝えることの大切さ

相談者の対応を承認した後、私たちは自分の目線で見えていることを丁寧に伝えます。

「弁護士としてお話を伺っていると、世の中には感情に任せてしまうことで、かえって状況を悪化させてしまう方もいます。一方で、Aさんは冷静に向き合っておられるように感じます。」

このように、相談者が自分でも気づいていなかった力を言葉として返すことは、とても意味があります。
それは、その人自身の力強さや歩みを一緒に見つめることでもあります。

法的な支援が難しいときに伝えること

ここまで丁寧に話を聴き、心に寄り添ってきた上で、それでもどうしても法的な支援が難しいことを伝えなければならない場面があります。

「今回の件については、法的な対応が難しいため、弁護士が直接関わることはできないのです。」

このように率直に伝えるとき、同時に自分自身の気持ちも正直に言葉にすることが大切です。

「私自身、お力になれず心苦しいのですが…」

弁護士自身の気持ちを伝えることで、相談者は「一方的に断られた」と感じるのではなく、
寄り添われている実感を持つことができる可能性が高まります。

安心して前に進むために

法的な対処ができないときでも、弁護士ができることは実はたくさんあります。
それは、相談者が自分自身の言葉を丁寧に取り戻し、「これからどう向き合っていこうか」という視点を一緒に整えることです。

相談が終わるとき、「少し楽になった気がします」と仰り、相談者の笑顔が見える瞬間があります。

それは、法律の知識でも、手続きの戦略でもありません。
相談者の声を聴き、その人の軌跡を認め、一緒に言葉を整えるプロセスそのものが、人の心を軽くするのです。

弁護士が相談者と共に過ごす時間は、法的な解決を導くだけではなく、その人の前にまた一歩をつくる時間でもあるのではないでしょうか。

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最後までお読みくださり、ありがとうございました。

この会では、隔月1回、テーマを決めてレクチャーと対話を行っています。このブログでは、その中から、私たちが話した部分の要約を載せています。コーチングの可能性を多くの弁護士の方々に知ってもらえれば幸いです。
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