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弁護士の説明はどこまでわかりやすくできるか-予測可能性-

木葉:今日のテーマは、「弁護士の説明はどこまでわかりやすくできるか、予測可能性」です。

ご相談者の中には、弁護士のところに相談に来るのが、人生で初めてという方もいらっしゃいます。人生の重大事を相談するので、緊張している方も多いと思います。そのようなご相談者に対して、弁護士からわかりやすい説明ができているでしょうか?

弁護士の説明

一般の方からしてみればこのように思っているかもしれません。
・専門用語が多い
・今何の話をしているのか
・何度も質問しにくい
・話すのが早い

ここで1つ、私のエピソードを紹介します。
先日とある専門分野の方とお話しする機会がありました。とても話しやすく素敵な方だったのですが、私があまり知識のない分野だったので、専門用語が多く、途中から私の頭の中は、
「せっかく貴重な機会をいただいたのに、もう少し調べてから来ればよかった」
「先程の説明がよくわからなかったなんて、言いにくい」
とすっかり元気がなくなってしまいました(ちょうど心の中の表情は、は上の絵のような感じです)。

弁護士からの説明の話に戻ります。
弁護士自身が頭の中で分かりやすく説明できたと思っていても、相談者にとっては、それほどわかりやすくない、ということがあるのではないでしょうか。

わかりやすいとは~予測可能性~

それでは、人はどのようなときに「わかりやすい」と思うのでしょうか。
私は、「予測可能性があること」、つまり、実際のイメージがどこまで持てるか、だと思っています。

予測可能性をさらに分解してみます。私は、予測可能性を持っていただくためには、2種類の工夫の方法があると思います。
1つ目は聴覚的な工夫、2つ目は視覚的な工夫です(この分類は何か参考文献があるわけではなく、私がこれまでの経験を振り返ったときに、このようにわかれるのでは、と分類したものです)。

まず聴覚的な工夫についてお話します。これは、話がどのように進行していくのか、話の流れが分かるような言葉をまぜたり、使う用語を工夫することによりわかりやすくする、ということです。

例えば、私は、法律相談の冒頭でこのように話すことがよくあります。
「今日はまず、これまでの経緯についておうかがいさせていただきます。
そしてその後に、これまでの経緯を踏まえ、今後の方針についてのお話をさせていただきます」。
このように説明しておけば、相談者としては、
「まずは、これまでの経緯について話せばよいのだな。
その後、弁護士から、今後の方針についての話が聞けるのだな」
と話の流れを予測することができます。

私は、特に弁護士になりたてのころは、このような前置きをしていませんでした。
例えば、「これまでの経緯についてお伺いします」といわば突然入っていたので、ご相談者としては、今日の流れはどうなっているのかと不安になっていたかもしれません。

2つ目の、視覚的な工夫についてお話します。これは、視覚的な資料を活用するということです。
例えば、カレーライスを食べたことがない人に、カレーライスが何かを説明する場合を考えてみます。この場合、写真を見せながら、
「カレーライスとはこのような料理です。
材料はニンジン、ジャガイモ・・・」と説明した方が、写真を見せない場合よりも圧倒的にわかりやすいと思います。
弁護士が説明をするとき、いわばカレーライスを食べたことがない人に、写真なしで、カレーライスとは何かを説明する、ということになっていないでしょうか。

聴覚的工夫①~順序を示す言葉~

話の中に順序を示す言葉が入っていると、予測可能性を持って聞きやすくなります。

私はここに挙げているものはよく使います。

私の実際のエピソードですが、私は、以前は、ご相談者にこれまでの経緯をお聞きするときに、
「これまでの経緯についておうかがいいさせていただけますか」
とお聞きすることがよくありました。これだと、本当は基本的に、時系列順にお話ししていただいた方が一緒に整理していきやすいとこちらが思っていても、話の流れとして、時系列順になりにくいことがあります。
そこで、よく振り返ってみると、こちらから「時系列に沿っておうかがいします」とそもそも言っていなかったことに気が付きました。

そこで、今は、
「これまでの経緯について、時系列に沿っておうかがいさせていただけますか」
という聞き方をするようにしています。
そうすると、ご相談者の方も基本的に時系列で話してくださるので、これまでよりも経緯を整理しやすくなり、ご相談者が弁護士に「ここを聞きたい」と思っている部分の説明に時間を取りやすくなった印象があります。

聴覚的工夫②~専門用語の言い換え~

次は専門用語の言い換えです。
弁護士自身はわかっていても、相談者からすればなじみのない言葉もあります。
一般の日常生活で使わない言葉は全て、相談者にはなじみのない言葉だと思って相談に臨んだほうがよいと思います。

ここでは、私が実際に使用している専門用語の言い換えの例を挙げました。例えば婚姻費用だったら「婚姻費用」と言った後に「これは生活費のことです」と説明を加えています。

聴覚的工夫③~略語を乱発しない~

次は、略語を乱発しないということです。

これはこの前気付いたのですが、ご相談の中で、自分が無意識に家庭裁判所のことを「家裁」、地方裁判所のことを「地裁」と言っていることに気が付きました。
家裁、地裁くらいであれば分かるかもしれませんが、略語よりはきちんとした名称のほうがイメージを持ちやすいと思うので、これからは気を付けようと思っています。

視覚的工夫

次に視覚的工夫のお話をします。
今回私が、自分自身の初回相談を振り返って気が付いたことは、
「口頭だけの説明が多い」
つまり、視覚的効果をあまり活用していない相談になっている、ということです。
例えば、今回は例として離婚相談の場合を取り上げると、
相談票
婚姻費用・養育費算定表
有責配偶者からの離婚請求が認められる3要件のシート
等はこれまでも活用していますが、これを、視覚的効果を活用してわかりやすく工夫できないでしょうか。

まず、西暦・元号対照表です。
これは私が作ったものです。私は、ご相談の最初に相談票を書いてもらい、その後に、「これまでの経緯について、時系列に沿って、うかがわせていただけますか」とご質問をすることがよくあります。
これまでは、その場面では特に何か、ご相談者用の補助資料を準備することはありませんでした。話をうかがう
今回振り返ってみて、そういえば、ご説明いただく中で西暦と元号が交ざってしまい、混乱するご相談者が一定割合いることに気が付きました。
そこで、今までは私の手持ち資料としてしか活用していなかった西暦・元号対照表をご相談者用も1部用意し、見ていただきながらお話をうかがうことにしました。

次に、離婚の種類についてのシートです。
私は離婚のご相談の中で、これまで、
「離婚の方法には3種類あります。協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つです」と口頭でご説明してから、それぞれ離婚の方法について内容を説明することがよくありました。しかし、もしかしたら相談者にとっては協議離婚、調停離婚、裁判離婚の専門用語を3つ並べられて負担がかかっていたかもしれません。

今後は、上記のシートを目の前にご用意して、お見せしながら説明しようと思っています。

今までは協議離婚について説明をするときも全て口頭だけで説明をしていました。今後の工夫として、実際の離婚届が目の前にあった方が協議離婚のイメージを持ちやすいと思うので、離婚届を目の前にご用意してお見せしながら説明するのも良いのでは、と思っています。

今までは、調停離婚について説明をするときも、
「調停離婚は、家庭裁判所の調停という手続を通じて話し合って離婚する方法です」
「実際の調停のイメージは、家庭裁判所の中の部屋に、調停委員が2名座っていて・・・」
等、全て口頭だけで説明をしていました。

振り返ってみると、弁護士にとっては、
「家庭裁判所がどのような建物で、調停室はどのようなところで、調停委員はどのような人で、どのようなことを話す」
ということがわかっているので、口頭の説明でも、頭の中で実際のイメージを持ちながら聞くことができると思います。

一方で、ご相談者にとってはどうでしょうか。大抵のご相談者は家庭裁判所に行ったこともなく、調停室に入ったこともなく、調停委員に会ったこともありません。先ほどの説明だと、ご相談者は、頭の中で一生懸命想像しながら話を聞くことになり、ご相談者にやや負担がかかっていたのではと思います。今後の工夫としては、上記の図をお見せしながら説明しようと思っています。これは私が簡単なイラストを描いたものですが、このくらいの簡単なものでも、口頭だけの説明を聞くよりはご相談者の負担は減ると思います。

協議離婚や調停離婚と同じく、今までは裁判離婚について説明するときも全て口頭だけで説明をしていました。
今後の工夫としては、上記の図をお見せしながら説明しようと思っています。
 
ここまで、視覚的工夫を活用して予測可能性を持たせるという方法を考えてみましたが、注意点もあります。
それは、
「せっかく作った資料だから見せたい」
とならないようにすることです。相談のポイントは、信頼関係を築くところにあります。これまで、この会では深いレベルでの「傾聴」の大切さについて学んできました。
弁護士が、「資料の使いどころはないか」と気を取られていると、深い傾聴にはつながりにくいと思います。
それでは、相談者に、
「手続の流れはわかったけれども、何だかあまり本当に聞いてもらいたいところを聞いてもらえなかったな」
という印象を与えてしまうかもしれません。流れ作業のような印象を与えてしまうこともあるかもしれません。
あくまでも、資料は相談者のためのものです。弁護士の自己満足にならないように使うことが大事だと思います。

まとめ

ここまで、予測可能性を持っていただくための、聴覚的工夫、視覚的工夫についてお話しさせていただきました。
自分で振り返ってみて、予測可能性とは一体何か、というと
「優しさ」
だと思っています。初めていらっしゃる方のために、使わないかもしれないけれども、どのような準備をして臨むのか、そのことを考えること自体が優しさだと思います。

今日はご清聴いただきありがとうございました。

木葉 文子 (きば あやこ)

太田宏樹法律事務所(札幌市) パートナー弁護士 コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) カウンセラー(JDAP認定メンタル心理...

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