傾聴のスキル

大門:ありがとうございます。『コーチング・バイブル』にもパターンのことが書いてあったと思いますが、人間関係において「繰り返していること」というのを俯瞰してみると感じることがあると思います。会社の社長さんで、いつも人と揉めていて、形は違うけれどもまた似たような相談がきた、ということがあると思います。そういうときに、「社長、これ、繰り返していませんか」というようなことをお伝えすることも俯瞰のスキルを活かしたものと言えるかもしれません(このようなことを言える関係性をつくることが前提として必要ではありますが)。一個一個のトラブルを解決することを依頼されているわけですが、トラブルの解決とは別のところで、「根本的にこういう人間関係をつくりがちではありませんか」というところをお聴きしたりお伝えするというのは、本質的なその人やその会社への貢献に、もしかしたら繋がることがあるのではないかと思います。

波戸岡:ありがとうございます。俯瞰はある意味視点を変えるということですけれども、視点を変えるというのは、もう一歩どういうことなのか、何をずらすのかというときに、場所を変えてみる、時間を変えてみる、人を変えてみる、例えばそういう軸があると思います。

場所を変えてみると、それこそこの本に書いてあるように、「今は麓にいるけれども、山の上に登ったらどのような景色が見えるんだろう」、これは「どのような景色が見えるんだろう」という、ある意味ビジョンが見えてきます。ビジョンとミッションを大事にしようとよくいいますが、ビジョンとミッションは似ています。ビジョンは見るという意味があるので、「こんな景色が見えるんだ。山の上と下で全然見える景色が違う」ということで、「そのために何ができるだろう」「どういう景色が見たいんだろうか」というビジョンを見ます。ただ単に「誠実がいいです」「幸せがいいです」ではなくて、それはどのような景色なのかというビジョンが持つ力は、すごくパワフルだと思います。

それから、時間です。今起きていることは、いつかは終わるし、いつかは代理人はいなくなる、いつかは自分でやっていく、3年後は必ず来る、5年後は必ず来る、「その時にどうなっていたいですか」「どこにいるのですか」というように、時間をずらしてみます。

次は人をずらしてみます。「もし相手だったら、私はどう見えているのだろう」という形で、そういうものも一つのスキルかもしれません。私たちはよく視点を変えよう、視座を変えようと言うけれども、実際にやろうとすると、いきなり抽象論に飛んでしまうことがありますが、こういう形でやってみるのは面白いかと思います。ありがとうございます。

それから、次に比喩のスキルですね。比喩を考えていると、傾聴レベルが1になってしまうのではないかという心配があったりしますが、
この点、木葉さん、レクチャーの中で絡まった糸の話がありましたけれども、いかがでしょうか。

木葉:比喩は、「どこで使ってやろう」と、うまいことを言おうと思っているとレベル1になってしまうというのは、本当にそのとおりだと思います。なので、そのときに思い浮かんだ比喩をそのまま出してみるという感じでいいと思っています。あとは、依頼者のためにこのようにやったら分かりやすいかもしれないと事前準備しておく比喩があると思います。そうであればレベル1にならなかったりするので、依頼者のための関わりとして事前に用意しておくというのもいいと思っています。

波戸岡:中原さんは比喩はかなり使いますか。

中原:比喩は大好きです。適切な比喩が出てくるときは、一番話が聴けているときかと思います。自分とクライアントさんがすごく広い世界観に立っているようなときに、極端に言うと「今、お釈迦(しゃか)様の4つの請願という言葉を思い出しました」「終末期医療の専門医のあるお医者さんが、ご自身が若くして癌で亡くなった、その最後に〇〇という言葉を残されています。そのことをふっと思いました。あなた(依頼者)のお話は、とても胸に迫るものがありますね」など、心から相手の話を聴いているからこそ、ふっと生まれる直感なども関係すると思います。

波戸岡:大門さんは、比喩についていかがですか。

大門:弁護士の相談を受けていると、クライアントと相手が激しく責めあっているときがありますよね。「今、話を聴いていると、こちらが弓を出したら相手がピストルを出してきて、相手がピストルを出してきたからこちらは戦車を出せませんか、というような相談に聴こえますが、どうですか?」とお聴きしたりします。「そう私は感じたけれども、どうですか」という感じです。「嫌ですね」と言う方もいれば、「絶対に曲げません」と言う方もいて、それは本当に人によるので良い悪いはないと思いますが、そう見えたことを比喩で伝えるとイメージで伝わるので伝わりやすいことはあるかもしれないですね

波戸岡:比喩のいいところは、同じイメージを共有できる状態で、つながりがより深まるという効果がありますよね。

大門:あとは、深刻なことをややコミカルに柔らかく伝えるためには、もしかしたら役立つかもしれません。

波戸岡:今後は比喩を楽しく使いたくなってきました。
それから、認知についてです。「認知は受け手の内なる特性を認めるものだ」とか「その人がどのような人なのかに焦点を当てる」という記述がありますね。木葉さんの話の中で、「勇気を出して相談に来てくれたことを肯定する」という話がありましたね。

木葉:弁護士のところに相談に来るあらゆる人が、一歩踏み出す勇気があったからこそまず電話をしている、それで事務所に足を運んでいるので、勇気という特性は、全ての相談者がお持ちになっている特性だと思っています。ただ、弁護士がそこに焦点を当てない限りは、それを褒められる機会はありません。「困っているから相談に行ったんでしょう。それは解決するためにやったことだし」と本当に誰からも褒められません。弁護士は、弁護士業務をしていて依頼で褒められる機会は、事件終了時に希望どおりまとまった時等あると思いますが、実は依頼者は褒められることがありません。依頼者が、内なる特性のところを肯定してもらう機会がないんだということは、今回事前準備をして初めて私も気付きました。

認知のスキルは、その行為を褒められることもすごく大事だと思いますが、内なる特性の部分を認めてもらうところがあると、人は本当に勇気づけられます。認知のスキルは弁護士業務にすごく生かせると思っています。

波戸岡:ありがとうございます。中原さんの以前のお話の中で、「来てくれたことに感謝や勇気を」という話を覚えていますが、それと関連して、もしくはこの認知のところで、いかがですか。

中原:本当にそうです。これは木葉さんもおっしゃったように、やり過ぎや大げさということはないと思っています。それは全て場面に言えると思います。例えば、「この状況で、よく、お相手に電話で意見を伝えることができましたね」とか。たかが電話1本と思わず、そこには本当に勇気が必要だったはずだし、それでもうまくいかなくて悩んで、ここまで来られたんだなと思いをはせる。つまり、どの依頼者も、弁護士のところに来るまでに、自分なりにその事件に対して対応されているはずです。それが法的に見て正しいか、適切な振る舞いであったかという点は、全然関係がありません。

しかし、依頼者の行動だけに注目すると、行動は必ずしも、適切な選択ではなかった場合もあると思います。問題を大きくしたり、相手を怒らせたり、しかし、そんなことはよくあることで、むしろ当たり前のことです。その行動の良し悪しを指摘しても何にもなりません。なので、「これは大変だったでしょう。よく1人で向き合ってこられましたね。私からすると、○○さんの誠実さや、しっかり自分事として考えるという姿勢として感じられます」などと言います。

そして、依頼者をしっかり承認できるように、実は、途中でちょいちょい布石もしています。例えば「この書類をもう一回探してください」と言って、後から「あの時、忙しいのにあの書類をよく探してくださいましたよね」と言ったりします。そして、最後には、「こうして〇〇さんが、真剣にずっと向き合ってくださったからこそ、この終結が迎えられたんですよ」など、あなたの努力の成果である、と言葉にして伝えるようにしています。

波戸岡:依頼者からすれば、それは非常にうれしいですよね。

中原:事件の勝ち負けそのものは、我々には完全にはコントロールできませんが、依頼者の満足度という、われわれの本質的な仕事は、弁護士がきちんとコミットすることで成果が必ず出せると思っています

波戸岡:なるほどです。訴訟や交渉の結果はコントロールできないけれども、その人との関係性はコントロールできるし、自分の働き掛けや関わり方次第ということですよね。

中原:はい、それこそ、事件では大勝ちしても、「この弁護士はすごく腹が立った」「何かいらいらが残っている」となったら、本質的な解決にはならないと思うし、誰の幸福度も上がりません。

波戸岡:ありがとうございます。大門さん、この認知のところはいかがですか。

大門:皆さんにお話しいただきましたが、法的な手続きは私たちにとっては日常のことですけれども、弁護士ではない方が法的手続きに対応することは本当に大変なことだと思います。先ほど木葉さんがおっしゃっていましたが、法的手続きをとることはクライアント自身で決めたことであり、弁護士に依頼をしたからやるのは当たり前だといわれればそうかもしれませんが、何も知らない法的な手続きについて、弁護士から説明を受けて、決断をして、ひとつひとつのプロセスを踏んでやっていくということ自体が、本当に大変なことだと思います。クライアント自身に、大きな勇気や努力など、いろいろなものが必要だと思うのです。そういうときに、弁護士から「ここまでのプロセス、本当によく頑張られましたよね」とお伝えすることは、クライアントさんを勇気づけたり、これまでの自分の頑張りを認めてもらえる体験の一つになる可能性があると思います。

中原:それが、「よく頑張られましたね」「本当に誠実な方ですね」という言葉でも、たとえば近所の知人に言われるのと、弁護士に言われるのとではインパクトが違うかもしれない。もしも違うとすれば、それが私たち弁護士に与えられた、一つのパワー、権威の力だと思います。そして、これこそが、グッドパワーの使い方だと思います。

波戸岡:面白いですね。承認と認知は近いと思いますが、人には承認されたいという気持ち、認知されたい、気付いてほしい、認めてほしいというものがあります。この認知とは、何を認知するのかというのは前半の「認知するのは行為ではなくてその人だ」というところです。

もう少し分析すると、よく言われるのが3つの承認というものがあります。結果の承認、行為の承認、存在の承認という3つに分類されることが多いです。
結果の承認というのは、例えば誰かがレポートや文書などを持ってきてくれたときに結果を認めます。
「よくできているね。これはいいレポートじゃない」というのは結果の承認です。
行為の承認は、「頑張ったじゃないか。前回のリポートに比べたらすごく進歩して、これは頑張ったんだね」という行為を承認します。
存在承認は、「もしかして、あなたは天才?」というような、人格のところを承認するという3つがあります。
承認されるときは、やはり3つ目の存在承認が非常にうれしいです。「すごい才能の持ち主なんじゃない?」というのは、本当に少し大げさに聞こえるかもしれません。先ほど中原さんがおっしゃった中にもありましたが、褒め過ぎではないというか、存在のところについては全然大げさということはなくて、全くそういう問題がないし、そこはぜひ使ったほうがいいのではないかと思います。

大門:付け加えたくなってしまったこととして、私がコーチングを学び始めたときに気付いたことなのですが、認知をすると自分が気持ちがよいということです。相手に「あなたはこんなところが素晴らしいよね」、「私はあなたのこういうところが好きです」などと言うことが、いかに少なかったかと思いました。自分が言葉にして伝えると自分もうれしいという体験があります。

認知は「おべっか」のようになるものではないと思います。ないものを無理に出すのではない。自分のなかに生まれたものを自然に出していくということが本質的な認知だと思います。今では認知が楽し過ぎて、お店の店員さんの笑顔がすてきだと、「本当に笑顔がすてきですね」という感じで言ってしまいます(笑)。少し変な人と思われるかもしれないと思いつつも、それで実際に変な顔をされたことは実はあまりなく、「ありがとうございます!」と返していただくことが殆どです。「この人の笑顔、すてきだな」、「この人のこういうところが素晴らしいな」ということを、日々思うことはありませんか。ないものを出すのではなく、あるものを自然に出せる関わりというところが大切なのだろうと、思い出していました。

波戸岡:ありがとうございます。では、皆さんは今度からレストランに行って、すてきな笑顔を見たら必ず、「すてきな笑顔ですね」と言いましょうか。

中原:言ったら絶対に、両方ハッピーになります(笑)。
私は本当にこの会が好き過ぎて、皆さんがすてき過ぎます。いろいろなスキルがありますが、スキルはマインドを具現化するものだと思います。そして、大門さんの話もそうですけれども、存在承認はその人に対する心からの尊敬や敬意、感謝だと思います。笑顔を見せてくれたらこちらもうれしくて、「ありがとう。笑顔がすてきですね」と言いかえす。その承認の価値は、思っているより大きいと思うのです。逆に、存在承認が欠けると、その人の居場所が失われて、離職したり学校に来なくなったりということさえあります。お互いに「居る」いるということは実はそれほど簡単ではないのです。相談に来るということもそうですけれども、そこにいてくれる、来られている、共にあるということを本当に大切に感謝したいと思います。ちなみに、感謝すると、幸せホルモンのオキシトシンが出るので自分も幸せになるし、言われたほうも単純に幸福度は上がると思います。

波戸岡:ありがとうございます。木葉さん、今日はレクチャーをありがとうございました。いかがでしたか。

木葉:私が一番勉強になったのではないかと思っています。簡単なレクチャーをさせていただいただけでも、私は今までどういうことをしていたのか気付くことができて、皆さんとやりとりさせていただいて非常に勉強になりました。スキルとマインドは双方向性があると思っています。スキルを使おうと思うと、マインドのところがしっかりしていないとうまくいきません。なので、スキルを試してみたら「こういう在り方で関わっていったら、うまくコミュニケーションが回っていくんだ」ということに、ふっと気付く瞬間があり、そういう瞬間がさらに増えたらうれしいと思いました。ありがとうございます。

波戸岡:今日も本当に多くの気付きと学びがありましたね。ありがとうございました。

大門 あゆみ (だいもん あゆみ)

法律事務所UNSEEN 代表弁護士(東京・港区) コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) ❖企業法務を中心に、相続、夫婦問題に主に取り組む。クライアントが自分を守り大切にするために、法律家としての専門的知見のみならず、自分の持っている全てのリソースを用いてクライアントを支援したいと...

プロフィール

木葉 文子 (きば あやこ)

太田宏樹法律事務所(札幌市) パートナー弁護士 コーチ(CPCC資格保有者:米国CTI認定プロフェッショナルコーチ) カウンセラー(JDAP認定メンタル心理カウンセラー) ❖「企業と人の可能性を引き出す」ことを大切に、中小企業法務、労働、離婚・親権、相続、破産管財事件等を中心に取り組んでいます。弁護士である一方...

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中原 阿里 (なかはら あり)

CLARIS法律事務所 代表弁護士(芦屋市) ラッセルコーチングカレッジ主催 コーチ(ICF国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ/PCC) 米Gallup社公認ストレングスコーチ/行動心理士/上級心理カウンセラー ❖英文科卒業後、広告代理店・社長秘書を経て結婚。娘2歳で離婚、働きながら「ひ...

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)

アクト法律事務所 パートナー弁護士(東京・港区) BCS認定プロフェッショナルエグゼクティブコーチ (一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ ❖中小企業とビジネスパーソンをもりたてるパートナーとして、法的アドバイス、対外交渉、契約書作成・チェック、人事労務問題の予防・解決を中心に取り組んでいます。 これまでの...

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